7. ゼロの星
さて──────
魔物の攻撃で、店舗は全壊した。
どう考えても、早急に兵士に報告しなければならない。
いや、正確にはアシュリーもオリベルも兵士なのだが、今日入隊の兵士がどうこうできる事態では既になかった。
「どうするか…
出勤すれば兵士には会えるから、とりあえず出勤する…?
でもここ放置して、堂々と出勤ついでに報告ってのも何か違うような…」
ぐるぐると考えを巡らせるアシュリー。
その肩を、オリベルの大きな手が叩いた。
「何?」
「見てアシュリー、ちょうどいいところに兵士さんが飛んできたよー!」
兵士が…飛んできた?
アシュリーは顔を上げる。
確かに、城の方からこちらに向かって、青い空を飛んでくる人影があった。
それは間もなくアシュリー達の真上にたどり着き─────
破壊された店舗を眺めるように、飛び回る。
「派手に壊れたな」
低い声。
逆光でよく見えないが、細身の男だ。
「建物は全壊か。
魔物はどうした?」
魔力をまとって浮くその男は、アシュリーとオリベルのそばに、ふわりと降り立つ。
二人を見据えるのは、金の瞳。
魔力の風になびく、夜闇色の長いくせ毛。
左目には、泣きぼくろ。
兵士規定のズボンは履いているが、そのほかはブラウスもジャケットも着てないし、スカーフも巻いていない…。
上は黒いタンクトップ一枚だ。
オリベルは、よくこの人物が兵士と分かったものだ。
──────自分には、分かるけど。
そう。
アシュリーには、この青年が誰かまで分かっていた。
彼が、自分と同じく、元傭兵の男だからだ。
魔法と二刀流を合わせた自己流の剣術を使う、叩き上げの戦士。
ジュリーク=エリ王立兵士隊に入隊するため、傭兵を引退した時は、随分惜しまれた。
小兵だが、名の通った腕利きの傭兵だ。
ゼロの星──────ゼロステラ。
それがこの若い男の名である。
ゼロステラは、目の前に立つ二人の反応を見比べる。
彼はまずオリベルに手を差し出した。
「名乗ってなかったな。
ジュリーク=エリ王立兵士隊・歩兵第一部隊、副部隊長のゼロステラだ。
宜しく頼む」
「オリベル=アボットです!よろしく!」
それから、彼はアシュリーに向く。
同じように手を差し出して─────
「お前は…分かるな?」
少し、口角を上げた。
「あ、はい…!
俺、元傭兵なんで」
「ああ。
お前とは同業だった時期がかぶってるから、それなりには知ってるつもりだ。
アシュリーだな。宜しく」
アシュリーは、自分のそれより少し小さい、ゼロステラの手を握り返す。
…凄い人と握手してしまった。
「さて、自己紹介も済んだことだし…
本題に移ろう」
長いまつげの目が厳しさを帯び、整った眉根が寄せられる。
細く白い指が、全壊の店舗を指した。
「これは一体どういうことだ?
話を聞かせてもらおうか」
…。
これは…ダメだ。
ゼロステラがキレイすぎて、いまいち圧に欠ける。
脇のオリベルはぼーっと突っ立って、報告を始める気配はない。
…すっかり、ゼロステラに見とれている…。
アシュリーは、息をひとつつく。
経緯について、一通りを話していった。