6. 魔法の代償
アシュリーは、人ならざる者である。
それは彼自身、自分でよく分かっていた。
赤や黄色をした、夕暮れ色の髪。
長い耳は先が割れている。
そして────鎖骨に、青い結晶。
この結晶は、彼が魔力を使うとき、彼の全身に、場所を選ばず浮いてくる。
結晶の発生によって破いた衣服は数知れない。
まあ、鎖骨部分以外の結晶は、時間経過で消えていくが…
それでも不便なものだった。
身体に結晶が浮く。
この変な体質のおかげで、小さい時分から距離を置かれることが多かった。
友達と呼べるような人なんか、ほぼいない。
19にもなって…。
そんな自分の特性を、初対面の、同期になる人物の前で、発現させてしまった。
そのことへの後悔が一気に来る。
ジャケットのボタンを閉めて隠そうか。
だが、胸から腹部、腰にかけていくつか結晶が尖って出ていて、これでは上着まで破きかねない。
せめて上着は無事なままでおきたい。
そう考えて、ジャケットを脱ぐ。
腕に布がこすれて────腕部分にも結晶があることを悟った。
よく見たら、そこもシャツを破っていた。
もう繕いようがない。
構わない。
引かれるのは、慣れている─────。
アシュリーは、そう自分に言い聞かせる。
つとめて普通を装って…。
「終わったよ。ケガないか?」
地面に伏せている青年に、声をかけた。
青年は、顔を上げる。
彼は辺りを見回した。
「わぁ、すごい…!
魔物、一瞬でいなくなっちゃったね!」
彼は、アシュリーを見て無邪気に笑う。
「君、ほんとにすごいねー!
僕、こんなすごいの、初めて見たよ!」
…“すごい”以外の語彙があまりなさそうだ。
というか…
結晶だらけで服を破ったアシュリーを見て、彼は全く驚かない。
…恐る恐る、訊いてみる。
「…お前さ」
「うん!」
「俺…こんな結晶とか出てるし、めっちゃ服破ってるけど、気になんないの?」
「えー?ならないよー」
青年は、…
心底不思議だ、という顔をした。
「このキラキラの結晶、君が魔法使ったからこうなったんでしょ?
頑張った証拠だねー!」
…。
「…そう?
お前、よく分かんねーな」
「えー、わかんないかな?
あっわかった!きっと僕の名前わかんないから、僕のことよくわかんないんだよ!
僕オリベル=アボット!よろしくね」
アシュリーは…
何だか、妙な敗北感にさいなまれた。
いっそすがすがしい。
「俺はアシュリー。
こっちこそ宜しくな、オリベル」
「うん!よろしく、アシュリー!」
単純…というか、何というか。素直な奴だ。
アシュリーは彼がうらやましくなった。