4. 魔物を前に
商街区東側、イーストサイド。
角地にある2階建ての店舗。
屋根がすっかり破られている。
看板は落ち、壁面も所々破けて、崩れ落ちるのは時間の問題だ。
周辺には、おびただしい数の魔物がたかっている。
有翼の魔物。
大きなコウモリのようでいて、顔は爬虫類っぽい。
猛禽類に近い形の、前脚と後脚。
“空トカゲ”だ。
商街区は、居住人口が少ない。
この店舗も、隣接する店も、中から人が逃げたりした様子はない。
つまり、誰もいないのだろう。
戦いの際、何かをかばったり、人目を気にしたりしなくていいのは幸いだった。
今は武器を持っていない。
魔物に対抗する手段は、魔法のみ。
幸い、空トカゲは魔法が効きやすい相手だ。
翼を焼いてしまえばもう何も出来ない。
派手に燃やしてやればいい!
アシュリーは、両手を胸の前で合わせ、力を込める。
足元に魔法陣を展開し、魔力を集中させる。
…鎖骨にある青い結晶が、共鳴し、うずいた。
深く息を吸って──────
「光れ!炎の、」
「うおあああーーーっ!おりゃーーーっ!」
──────?!
思わず詠唱を中断してしまった。
体から魔力が消散する。
今のは、間違いなくこの店舗の中から聞こえた…。
若そうな男の声だ。
誰か…いる!
破けた壁の隙間から歩道へ、ひしゃげた空トカゲが投げ捨てられた。
よく見ると、その辺に空トカゲの死体かいくつか転がっている。
ふいに、壁がきしむ。
建物が歪んでいく。
「崩れるぞ!」
アシュリーは声を張った。
叫んで間もなく、店舗は音を立てて瓦解する。
これは中の人は助からない…
そう感じるか感じないうち、がれきの一部が吹っ飛んだ。
そして───────
埃の中に、人影がひとつ浮かぶ。
「あいたた…もう!怒ったぞー!」
人影はがれきを踏んで跳躍し、空中の空トカゲにむしゃぶりつく。
埃の中から露わになった、男の姿。
真新しい、兵士の制服を着ていた。