3. 城下町エルド=エリ
首都エルド=エリ。
魔法国家ジュリーク=エリの城下町。
郊外との境目に広がるバザールを抜け、
庶民が暮らす居住区を通り、
高級市民が住まう富裕区へ。
もう少し先に行くと、城下町の中心。
すなわち、王城がある。
アシュリーは富裕区を過ぎ、商街区に達した。
城周辺の、メインストリートだ。
まだ朝早いので、店はあまり開いていない。
人通りもほぼない。
静かなものだ。
アシュリーは商街区には正直詳しくない。
普段、ここまで買い物に来ないからだ。
居候している教会からはバザールの方が近いし、そちらの方が物価も低い。
商街区に来るのは、本屋をいくつかはしごしたい時くらいのものだ。
そう────アシュリーは本が好きだった。
小さい頃から、教会の手伝いや傭兵稼業の合間に、よく本を読んでいた。
小説が多かった。戦記ものや、恋愛系、ちょっとした官能小説的な奴にも手を出してしまった。
今日は初出勤だし、自分にご褒美で、一冊くらい何か買ってもいいかな…と思う。
もし早く上がれたら、本屋に寄って帰ろう。
そんな楽しみに心を馳せはじめたアシュリー。
その耳を、轟音がつんざいた。
「何だ…?」
堅いものが落ちたような、瓦解するような音。
ここから決して遠くない。
出勤時間には少し余裕をもって出かけてきた。
状況確認し、兵士に知らせるか?
…。
“兵士に知らせる”。
その言葉に抱いた違和感の正体に気がつくまで、長くはかからなかった。
もうアシュリーは、“兵士に知らせる”立場ではない。
自分自身が、兵士なのだ。
彼は迷いなく道を逸れ、音の方向へ駆け出した。