8月10日-(1)-
いつの間にか知らないものをなくした
見えなくて触れないとても大切な何か
明るくなると目が覚めるのは、こんな所に来ることになる前からずっとあった習慣だから仕方がない。
でも、もう何日も、目覚めの良かった例しがない。
昨日だって今日だって、いや、昨日よりもっと前だって、とっくに忘れちまっただけで、やっぱり何か悪い夢を見てた。
当然、昨日やっぱり鈴木は死んだんだろうから、これで丁度10人死んだことになる。
(じゃあ・・・何で?)
鈴木は死んだんだろう。
気になったので、中岡が見付けたとか言ってた機能を使って、端末で調べてみることにした。
表示された中身を見て、思わず笑いそうになる。
だって、作っておきながら、千賀が自分で引っかかった、あの下らない法だった。
こんなので次々と死んでいくなんて、まったく、バカバカしい話だとしか言いようがない。
完全に自由じゃないけど、一応食い物とか服には困らないんだから、ここでの生活に絶対必要な物なんてない。
まあ、鈴木だって、千賀だって、別に盗んだりしたんじゃないだろう。
(ってことは)
誰かの物を自分の物だと思ったかなんかだ。
おれには絶対起こるはずもないことだ。
自分の物と、そうじゃない物なんて区別が付くに決まってるだろ、ふつう。
どんな勘違いをしたって、おれなら絶対間違えたりしない。
一番バカバカしいのは、自分で作った法に自分が引っかかるなんてことしやがった千賀なんだろう。
おれが法を作るなら、自分の役に立つか、何があっても自分は引っかからないようなものにする。
それか、他の誰かより有利になるか、誰かを引っかけられるものだ。
そうなるようにしなくちゃいけないし、そういう法じゃないんだったら作っちゃいけないんだからな。
起きてる間、いやいや、寝てる間だって、ずっと絶対気を抜けないなんてまっぴらだと思う奴はいるだろう。
っていうか、みんなそのはずだ。
だから、お互い見張り合うため、寄りかかり合うため、何人かで集まって気を抜くわけだ。
おれも誰かといるとき、気を抜いたふりをしたりするけど、その方が目立たないし、他の奴を油断させることができる。
だけど、おれが気を抜いたりするのは最後の一人になってからでいいはずだし、最後の独りなるのが、あと3週間後ってわけでもない。
おれ以外が全員いなくなれば、今日にでもあり得ることだ。
人数を減らすような実力行使をおれから仕掛けるってのは、危険だし、そんなことしない方がいいのは当たり前だ。
(だけど)
誰か気の短い奴がやってくれないかなと思うことは、よくある。




