8月9日-(10)-
「希望を持つのがダメなことなの?」
「違う」
安齊さんのすぐ後ろに着いた時、そんな会話が聞こえてきた。
「希望自体に善悪はないから、関わる人次第」
「どういうこと?」
安齊さんが榮川さんに訊くと、榮川さんは何故かわたしをチラッと見て
「希望が人を救い、人を滅ぼす」
と答えた。
「え?」
「・・・」
訳が分からなそうな顔をして自分を見上げた安齊さんから榮川さんは視線を、顔ごと思い切り外した。
そして、安齊さんの横を通り抜けるところで、榮川さんがポソッとつぶやいた。
「麻薬に頼らないで」
「なに?」
たぶん榮川さんは、わたしや安齊さんに向かって言ったんだろうけど、少し離れた所にいた鹿生くんにも聞こえてたようだ。
「おい、榮川、どういう意味だ、それ」
鹿生くんは榮川さんを呼び止めようとしてるみたいだけど、やっぱり榮川さんは立ち止まる人じゃない。
「おい!」
そのまま行ってしまった。
「何なんだ、あいつ」
胸の前で左の手の平を右グーで叩く鹿生くん。
「・・・」
鹿生くんも安齊さんも分からなかったみたいだ。
なぜか今だけは、榮川さんが言ったことのホントの意味が、すぐ分かった。
希望自体がどうこうってわけじゃないけど、関わる人次第で、希望に救われることもあるし、希望に滅ぼされることもある。
ここでの毎日、ここでの時間、ここに満ち溢れてるのは、絶望ばかり。
一度でも希望で気を紛らわせたことがあるなら、絶望で潰されないため、どこかに大きな希望がないかと思うはずだ。
大きな絶望が押し寄せてきたら、もっと大きな希望を探す。
もっと大きな絶望には、もっとずっと大きな希望を見付けようとする。
だって、希望に浸ってれば、絶望なんてなくなったような気になれるから。
それでも、ふとした瞬間、もっとずっと大きな絶望が見えてしまったら?
もっとずっとスゴく大きな希望が欲しいと願う?
(キリがないよ・・・)
絶望の前で目をつぶって絶望を見えなくしても、やっぱり絶望がまぶたの外にある。
絶望に背中を向けて絶望が目に入らなくしても、やっぱり絶望が自分の背後にある。
絶望がこの世からなくなった気でいたとしても、やっぱり絶望がこの世の中にある。
(でも・・・)
わたしは、とっくにそうなってた。
遠くないいつか、絶望に噛み付かれ食い殺されると解ってる。
だから、麻薬という怪物、いや、希望という悪魔に頼り切ったままズルズルと生きてる。
もう、悪魔にベッタリ寄り添って過ごすしかないし、悪魔にギュッと抱き付いて眠るしかない。
わたしに今日があるのは、悪魔のおかげだ・・・・・
裁きに因る死亡者
鈴木まな恵
裁きに因らない死亡者
なし
国家の人口
20人




