8月9日-(4)-
「中岡」
昨日、英基と口論してから、ずっと黙りこくったままだった長谷田がやっと喋った。
「何だ?」
「今いる部屋から移ろうと思ってる」
「なに?」
「同じ感じの部屋だけど、誰も使ってないのが1つあるんだ」
「そこに移るのか?」
「そう」
「・・・・・」
長谷田は冗談を嫌うわけじゃないが、こういうときにふざける奴でもないはずだ。
まぁ、ふざけるタイミングでもない。
「誰をどこまで信じていいのか、もう全然判んなくなっちまって」
「・・・」
「ホントもう判らないんだ」
吐き捨てるみたいな言葉。
俺としては、長谷田に訊いておかないといけないことがある。
「何で」
「え?」
「何で、そんなこと俺に言うんだ?」
「中岡・・・」
勿論、ホントは判ってる。
どうして俺にそんなことを言うのか、長谷田の気持ちも知ってる。
だから、俺も長谷田と同じだ。
完全におかしくなってきてるのは、俺だってそうかもしれない。
「俺と長谷田の考えが同じなら、俺は長谷田の提案に乗る」
「中岡」
「だから、何で俺に言ったのか教えてくれ」
「ああ」
長谷田は軽く頭を2、3回振ってから
「俺が中岡に言ったのは」
俺の肩をつかむ。
「俺と一緒に別な部屋に移って欲しいからだ」
「俺が?長谷田と?」
「そうだ」
両肩をつかまれた。
「中岡とじゃなきゃダメだ」
「俺と二人だけなのか?」
大きく頷く長谷田。
「ずっと考えてた」
「何を考えてた?」
「こんなとき誰と協力していくのか、ってことだ」
「それが俺なのか?」
「そうだ、それが中岡なんだ」
長谷田の手に力がこもる。
「でも、健蔵とも協力したいと思ってた」
「英基は?」
「英基か・・・」
俺の肩から手を離す長谷田。
「英基が昨日ちゃんと自分の間違いを認めたら、英基にも声を掛けるつもりだった」
「英基に言うのをやめたのか?」
「完全にやめたわけじゃないし、英基のことは、もう少し考えてみる」
「そうか」
「健蔵は英基とセットじゃなきゃ、口説けないから、そっちももう少し考える」
「そうか」
大体は俺と同じだ。
ただ一つ違うのは、英基が自分の間違いをし過ぎるくらい後悔してる証拠の言葉を、長谷田がまだ聞いてないこと。
俺の時は、うまく安齊に聞かせないようにできたが、長谷田と英基が口論したときは、ずっと安齊がいたから仕方ないが・・・
まぁ、そういう言葉は、俺が代わりに聞かせるより、英基本人に言わせるのが一番いい。
(そうだ)
まだ、長谷田と英基のことはこのままにしておこう。
「分かったよ」
「ん?」
「取りあえず二人で部屋を移ろう」
「大翔」
俺の肩をまた両手でつかむ。
「ありがとう」
「いや、雄生、俺も大体同じようなこと考えてた」
「そうか、大翔もか」
「ああ」




