8月8日-(9)-
夜の集会が終わって、ヒデくんと健ちゃんと廊下を歩いていた。
「今日は、誰にも何もなかったね」
「ああ」
「良かった、って言っていいよね?」
「そうだな」
ホントは昨日までのようにおしゃべりする気になんてなれないけど、朝に栞那ちゃんから頼まれたとおり、今日一日私は、ヘラヘラペラペラして過ごした。
でも別に、誰からも何も言われなかったし、みんな栞那ちゃんみたいに、そういう感じが安齊美結には合ってると思ってたのかもしれない。
「それにしても、ヒデくん」
「なんだ?」
「中岡くんも長谷田くんも」
「ん?」
「二人ともヒドいよね」
「んん?」
私が二人の何をヒドいと言いたいのか、ヒデくんは知ってるんだろうけど、とぼけるつもりのようだ。
でも、私は、言わずにいれなかった。
だって、ヒデくんが間違ってるなんて、私は思ってないんだから。
「ヒデくんは、昨日間違ってなかったよ」
「そうか」
「うん」
ヒデくんが昨日間違ってたかどうかについて、長谷田くんとも中岡くんとももめちゃってるのを見た。
朝ご飯の前にもめた中岡くんのときは、私が途中で集会室から健ちゃんと食堂に行ってしまったので、後でヒデくんから聞いた話だけど、ケンカにならなかったって言ってたから、そうなんだろう。
だけど、長谷田くんとは私が見てる前でケンカになってしまった。
法律があってもなくても、二人とも手を上げるような人じゃないから、もちろん口ゲンカだけど、お互い言ってることを絶対認めないから、見てる人はハラハラしてたはず。
でも、ヒデくんは間違ってなかったんだから、しょうがない。
なのに、間違ってたって認めちゃう方が間違ってる。
長谷田くんだって、とても頭がいいから、このヒドすぎる毎日をどうやって生き抜くか、きっと気づいてる。
「協力しないといけないんだよ」
「え?」
「長谷田くん、ずっと怒ったままだったけど、すぐまた仲直りできるよ」
「・・・」
「ね?」
「・・・だといいな」
「うん」
ヒデくんにムリヤリ笑いかける。
ヒデくんはヒデくんで、私に向かって細く笑った。
美愛を救えなかった。
美愛を救いたかった。
美愛を救って欲しかった。
美愛と私は、いつの頃からか、お互いにお互いの一部となってたから、今は体の一部が削り取られて、ごっそりいろんな何かがなくなってしまってる。
何もしないで、お互いを見張り合ってる方が正しかったなんて思えない。
もし、たとえ、そっちが良かったのだったとしても、美愛のために飛び出して行った健ちゃんとヒデくんが正しかった。
「俺も英基が間違ってたと思ってねぇぞ」
健ちゃんが言うので
「でしょ?」
私は乗っかった。
「ああ、分かったよ」
ヒデくんは苦笑い。




