8月8日-(8)-
「俺は」
英基はチラッと安齊の方を見てから
「俺は間違ってない!」
強い調子で言った。
「なに?」
自分でも判るくらい声がうわずる。
まさか否定するはずないと思ってた英基の返しだったが、英基の否定は安齊も意外に感じたのか、ビックリしたようにヒュッと音を立てて息を吸った。
「美結」
今度はチラッとではなく、はっきりそっちを見てから安齊に声を掛ける英基。
「え?」
「丁度廊下を健蔵が来たから、健蔵と先に食堂行っててくれないか」
「あ、うん」
安齊と英基の視線が俺の後ろ側に行ってるみたいだったから、振り返ると、確かに健蔵が廊下をこっちに向かってくるのが見えた。
「じゃ、ヒデくん」
「ああ」
小走りをしながら集会室を出て行く安齊。
俺も英基と同じように、安齊が健蔵と一緒に食堂の方へ歩き去るまで目で追った。
健蔵と一緒なら安齊も危なくないはずだ。
安齊と健蔵が行ってしまうと、英基は自分の方から俺に近寄ってきて、俺のすぐ隣に座り直すと
「悪かったな、さっきは」
と言う。
「なに?」
「大翔がさっき言ったことは、俺も昨日の夜からずっと考えてる」
「…」
俺をまっすぐ見てくる。
「俺は間違った」
「・・・」
英基は、さっき強く否定したことを認めると
「直接じゃなくたって、柚島を殺したのは俺なんだろうな、って」
と言うので
「いや、俺だって、そこまでは言ってない」
慌てて首を振る。
「いや、俺はそう思ってる。」
前から大してふざけたりしないが、こんな真剣そうな英基をほとんど見たことがない。
「今、美結を追い払ったのは、美結には聞かせたくなかったからで…」
ギッと歯ぎしりの音がした。
「そうだよな…」
「柚島がいなくなったのが美結に耐えられるかどうかも分からないのに、それが俺のせいでもあるなんてことになれば」
「いや、英基のせいじゃねぇぞ」
俺の言ったことに、英基は大きく何回も首を振った。
「とにかく、全然答えは見えない」
「・・・」
「じゃあ、どうすれば柚島を救うことができたんだ?」
「・・・」
「分からないんだ・・・」
英基は、机に両手の拳をついてガタガタ揺らした。
その様子に俺は
「俺だって分かんねぇよ」
と返すことしかできない。
そうだ。
昨日みたいなやり方は、間違いだったと思う。
でも、柚島を助けられたような正解なんて、俺にも分かるわけがない・・・
「大翔も分からないか」
「ああ」
自分の思いと俺の言葉で苦しんでるだろう英基に、何か声を掛けたらいいのか?
分からない。
そのとき、フラーッとした感じで英基が立ち上がって
「じゃあな、大翔」
と言うので
「食堂か?」
訊くと
「ああ」
とだけ答えて、英基は出て行った。
「・・・」
俺は、英基に何も声を掛けれないまま、独り集会室に残された。




