8月8日-(2)-
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力が入らない。
自分が幽霊にでもなったみたいな感じ。
健ちゃんとヒデくんに付いててもらいながらトイレまで来てたけど、さすがに中でまで一緒にいてもらうわけにもいかないから、入口で待っててもらってる。
鏡で自分の顔を見る。
一つ足りない。
昨日まで、私の映った鏡には、いつも二つ顔が映ってた。
ずっと映ってた。
今日はヒドい顔が一つだけ。
パッと見で分かる、しおれた顔。
自分なのに、自分の顔じゃないみたいだ。
「!」
そのとき、音もなく急に金色の風が鏡に映った。
「おはよう、美結さん」
振り返ってみると、栞那ちゃんだった。
鏡に映った風は、栞那ちゃんの金髪。
「おはよう」
栞那ちゃんから、今日もあいさつしてもらったので、私も栞那ちゃんにあいさつをする。
それは、昨日も、おとといも同じ。
私は笑顔であいさつを返したつもりだったけど、栞那ちゃんの表情は動かな
でもそれが、いつもどおりと言えばいつもどおり。
「・・・」
栞那ちゃんは、ちょっとトイレの奥までのぞくみたいな目線になってから、私に向き直って
「美結さんは大丈夫?」
静かな声で言う。
「え?」
栞那ちゃんが私に大丈夫なんて言うのを聞いたのは初めて。
だから、少し、ううん、かなりビックリした。
「っと、どうして?」
でも、栞那ちゃんは何が大丈夫か知りたいのか、分からない。
「今朝は誰もが、ひどい顔をしている」
「え?」
「昨日、大勢裁かれた」
栞那ちゃんは少し私に顔を近づけて、青い瞳の視線を合わせてきた。
「美結さんは、大丈夫?」
「あ…」
今度は、さすがに分かった。
当たり前だ、昨日のあったことで大丈夫なんかじゃない。
5人も裁かれてしまってるし、何より、あの美愛が…
美愛。
おとといまでの4人と昨日の4人。
ショックのレベルに違いがあったらホントはいけないんだろう。
だけど、失ったものの大きさからすれば
(ゴメンなさい・・・)
美愛を他の8人と比べるなんてできない。
「うん、あまり寝れてないよ」
頭を振って
「でもね、大丈夫、だよ」
顔のどこかは笑ったつもりになる。
もちろん、嘘。
大丈夫かどうか、自分で自分のことが分からない。
確かに、最初の日もほとんど眠れなかった。
それなのに、段々普通に寝れるようになった。
こんな生活にさえ、慣れてきてたのかもしれない。
でも、昨日から今朝までは、間違いなく1秒も寝てない。
(だって・・・)
美愛と初めて友達になったときから、3年。
その3年にあった美愛との思い出が、一晩中次々次々あふれてきた。
あふれてきた思い出の、その一つ一つが涙に変わっていって・・・・・




