8月7日-(9)-
「・・・・・」
今日の夕方から起きたいろいろを思い出す。
あまりにも立て続けに起き過ぎたせいで、もう何年も前にあったことみたくなってる。
いま目の前で起きてることだって、なんかテレビで演劇でも観てる感じだ。
「・・・ホントに?」
おびえたような目で言いながら、矢口の視線は目の前の珠美佳じゃなくて、少し遠くで壁にもたれて立ってる愛麗沙の方を向いてるのは間違いない。
でも
「なに言ってんの」
代わりに答えたのは、やっぱり珠美佳だ。
「もう止めれないって、まだ分かんないの?」
「そういうわけじゃ・・・」
「言われたとおりにやるしかない、でしょ?」
「・・・」
まだ愛麗沙を見ている矢口。
「あのさ」
全然矢口なんか見ないまま愛麗沙が口を開く。
「ムリしなくていいんだよ」
唇の端にかすかな笑いが浮かんでいて、それを見た珠美佳が
「広魅、あんた、したくもないことやめてさ、どっか行けば?」
と言うと
「・・・ぁ」
指を広げた手を珠美佳に伸ばす矢口。
「・・・・・」
言葉が継げなくなってしまった感じの矢口。
「そんなこと言っちゃダメじゃん、珠美佳ぁ」
「え?」
愛麗沙はゆっくり近付いてきて珠美佳を押しのけると、矢口の前でしゃがむ。
「こんなときだもん、助け合いたいな」
伸ばした右の人差し指で矢口の額をつつく。
「あたし、広魅に助けてもらってるし、広魅と一緒にいたい」
「・・・」
「広魅だって、イヤじゃないよね?」
愛麗沙と視線を合わせないでうなだれる矢口。
(・・・・・)
こういうやり取り聞くのは今が初めてだけど、脅したり、なだめたり、この人達は、ずっとこうしてきたんだろう。
それに、矢口みたいになるのも分かる。
他人が生きるため、自分は死んでもいい。
そんなのは絶対イヤ。
じゃあ、逆は?
自分が生きるため、他人が死んでもいい。
それはそれでイヤ、なんて人もたまにはいるかもしれない。
だけど、気は進まなくても、誰かの他の人の犠牲があれば自分が死なないっていうなら、それでもいいって考えるのが普通じゃないかな。
わたしもだ。
だからたぶん、矢口もだ。
それに、みんな分かってる。
ホントは、もう一つある。
3つ目の答えが、ある。
世の中に、3つ目の答えを出す人がいて、それが同じクラスにいるって知ったのは、こんなことになってからだ。
こんなことにならなければ、3つ目の答えも、それを持つ人も、遠い国とか映画とか新聞とかネットの世界の中だけの、わたしには関係ない人だったはず。
珠美佳がさっき矢口に言ったことは結局、3つ目の答えだ。
さっき声に出なかった、珠美佳の3つ目の答えが聞こえるようだ。
ジブンガイキレルナラ タニンナンテコロス




