8月6日-(10)-
「美結、お休み」
美愛がキュッと手を握ってきたので
「うん、お休み」
と言いながら私も美愛の手を握り返す。
目を閉じると寝返りをうって、美愛には背中を向ける。
真っ暗な中、急に今朝の健ちゃんの言葉を思い出した。
ミユ、ウレシイコトデモアッタノカ?
違う。
こんなところに来てから、ほとんど、うれしいことがない。
たぶん、今朝だってうれしいことは、なかった。
そういえば、昨日降ってた雨は、朝、目が覚めたときには降ってなかった。
雨は嫌いじゃないけど、雨降りよりは晴れてる方が楽しい。
朝、健ちゃんから言われたとおり、もし健ちゃんにさえ分かるほど、私が何かいつもと違う感じがしたんだとすれば、まあ、晴れだから良かった、そのくらいだろう。
(楽しい?)
そっか、晴れてて楽しい気分になったときに、ちょうど健ちゃんが見つけてくれたんだ。
(それにしても・・・)
思わず謝っちゃったくらいだし、栞那ちゃんに昨日してしまったことは悪いことだった。
今になっても、そう思う。
栞那ちゃんに悪いことしちゃった、と思ってはいるけど、どこが、どうして、どのくらい悪かったのかなんて、私は分からない。
夜どこにいるの、って聞いてみただけだった。
全然深い意味なんてない。
私はうっかりしてるから、不思議だなと思ってたことが、そのまま口に出ただけ。
栞那ちゃんの夜の居場所をホントに知りたかったわけじゃない。
栞那ちゃんが教えてくれなくたって、適当にごまかされたって、それはそれで良かった。
いつもフッといなくなってしまう栞那ちゃんが、少しだけ集会室に居続けてるのを見かけて、せっかくだから、栞那ちゃんと、もう少し話がしたかったから呼び止めたんだし、話をつなごうとした。
あのとき、私の心臓がギューってなって、ドッキンドキンとしたのは、栞那ちゃんの表情が少しも変わってなかったから。
そう。
栞那ちゃんは怒っちゃったとか、全然そんなふうには見えなかった。
全然見えなかったけど、でも、今まで一度だって、誰かの目があんなふうになったのを見たことない。
好き。
嫌い。
無視。
そんな視線は向けられたことがあって、どんなものかも知ってた。
あのときの栞那ちゃんの視線は、私の知ってるどれとも違う。
目が私に向いてても、私の向こう側だけしか見てない。
私は透明じゃないのに、栞那ちゃんの目には・・・映らない。
私はあそこにいるのに、栞那ちゃんにとっては・・・いない。
そんな感じ。
そんな感じがしたから、急に、息ができなくなった。
そんな感じがしたから、胸が、グシャッと、つぶれそうになったの・・・
裁きに因る死亡者
なし
裁きに因らない死亡者
なし
国家の人口
26人




