8月5日-(10)-
「・・・」
栞那ちゃんからは何の返事もない。
(やっぱり聞くのはマズかったかな・・・)
そう思ったから、一度栞那ちゃんを見るのをやめて
「・・・」
少し目線を落としたところで見えた栞那ちゃんの手が、ゆっくりと持ち上げられていく。
(?)
つられるみたいに顔を上げると、また栞那ちゃんの顔が目に飛び込んでくる。
口の辺りに、甲は私の方に見せて当ててある左のゲンコツの上で、私に真っ正面を向けた青い瞳。
青い瞳から一直線で飛んできてる視線。
凍ってしまいそうに冷たいというのとも違ってるのに、温度みたいなのは何も感じられない視線。
その視線が自分に当たってると分かった途端、怖いというわけじゃないにしたって、胸がドッキンドキンとし始める。
どうしてだろう、絶対表現できないような不安を感じる・・・
栞那ちゃんからっていうのも当然そうだけど、誰かに見られてることでこんなに不安な気持ちになってしまうなんて、初めてだ。
栞那ちゃんは私の質問に答えてくれてただけなんだし、栞那ちゃんが悪いわけじゃない。
きっと、私にそんな視線を向けなくちゃいれないようにしてしまったのが悪いはず。
(私が悪いんだ、私が悪いんだ、私が・・・)
心の中で何度も何度も言い聞かせる。
だって、そうしてないと別な声が聞こえて来ちゃうから。
(私が悪いの?私が悪いの?私が・・・)
私は、軽い気持ちで何となく栞那ちゃんに聞いてみただけだった。
でも、私は軽いつもりだったからって、栞那ちゃんにしてみれば、スゴく聞かれてイヤなことだったのかもしれない。
言葉をどう受け取るかは、聞いてる方が決めること。
「・・・ゴメン。言いたくないなら答えなくても」
この不安をどうにかしたくて、たまらず謝ってしまった。
「・・・ん」
さっきからずっと黙ったまま、温度のない視線を私に向けてた栞那ちゃんが、ゲンコツの裏で何か言った。
「え?」
「そう」
「?」
栞那ちゃんは、私から視線を外さないまま左手だけを下げる。
「言えない」
小さく首を振った。
やっと栞那ちゃんから反応があったことに、ただただホッとしたから
「いいよ。ゴメンね」
栞那ちゃんの瞳から自分の視線を外せるようになった。
私が栞那ちゃんの足下に視線を移すと
「・・・」
視界の中で栞那ちゃんの両つま先が私と逆に向いて、そのまま消えていく。
足音はしないけど、栞那ちゃんは何も言わないで私に背を向けて行ってしまったようだ。
もう顔を上げて栞那ちゃんの背中を見ることもできなかった。
(栞那ちゃん・・・なんか近付けたような気がしたのは、私の思い上がりだったんだね・・・・・)
裁きに因る死亡者
なし
裁きに因らない死亡者
なし
国家の人口
26人




