8月4日-(7)-
美愛が食べるのを見ながら、さっき舟山さんから聞いたことを話した。
「ふーん」
美愛は、時々相づち打ってたけど、一度もフォークを持つ手を休めない。
私の方は、スラスラ話せるわけじゃないし
「・・・っと、それで・・・」
時々思い出したりしなきゃいけなかったので、話してるうちに美愛は食べ終わってしまった。
「このくらいかな、舟山さんから教えてもらったのは」
「そっか」
「ゴメンね、私たぶん聞いたこと全部なんて話せてないと思う」
「いいよ、美結」
すぐ美愛が言ってくれたので、ホッとした。
「どうせ、ちゃんとしたこと聞いたって、全部分かるわけじゃないんだし」
「そうかも」
「それに、まあ、聞いたからって、すぐ何かの役に立てれるわけじゃないって」
「うん」
美愛に言われるまでもない。
私こそ、レヴィア法のことを知って、何かの役に立てれるわけじゃない。
そのとき急に、美愛が目線を私の頭の上の方に向けた。
「お早う、仁藤くん」
「!」
(ヒデくん?)
「お早う、柚島」
聞き慣れた声に振り向くと、少し離れた所だったけど、もちろんヒデくんがいるのが見えた。
ヒデくんの後ろには健ちゃんも来てるようだ。
「美結と飯食ってたんだろ?」
「うん」
「今朝は何を?」
「美結も私もパンケーキだよ」
「ふーん」
美愛とヒデくんが話し始めたので、私は立ち上がって
「ヒデくんは、もう食べたって言ってたよね」
話に入ろうとした。
そしたら
「飯はだいぶ前に食ったけど」
ヒデくんが持ってた紙コップをグッとあおりながら
「水が飲みたくなったから、もう一度来ただけだ」
と言うその横で
「俺は飲みたくもないのに英基に連れられてきた・・・」
わざとらしく健ちゃんがガックリする。
「置いて行ってくれていいのに」
「ダメだよ、健ちゃん」
「何が?」
健ちゃんが顔を上げたから、私は健ちゃんの顔をのぞき込むみたいにして言う。
「だって、健ちゃんもヒデくんも、私には独りになるなって言うのに、自分は独りになりたいなんて」
私に言われた健ちゃんはポカンとした感じで
「え、美結、いや、俺、一人になりたいなんて言ってないって」
返してきたけど
「健蔵、美結の言うとおりだ」
ヒデくんが健ちゃんの腰をバシッと叩く。
「何だよ、英基」
「俺に置いて行かれたいってのは、独りになりたいってことと同じだ」
「あー、はいはい」
もう一度腰を叩かれた健ちゃんは苦笑いを浮かべて
「英基も美結もいつも正しいよ」
軽くヒデくんの背中を押し返す。
「今のは美結が正しかっただけだよ」
押されたヒデくんも苦笑いしてから
「そういえば、美結、ちょっと聞いていいか?」
瞬間で笑いを消して、私を見る。




