8月3日-(10)-
ただ話を聞いてるだけだと思ってた安齊が急に声を上げたので、俺以外も安西に目を向けた。
「なんだ、美結、急に」
反応した仁藤に安齊は
「あ、ゴメン、思ったこと口に出ちゃっただけ」
と言ってから
「でもね、でも」
顔を下に向ける。
「・・・告発するような人がいなければいいのにって思ったの」
下を向いたままで小さな声でだったから、安齊の次の言葉は俺にもやっと聞こえたくらいだったけど、安齊に一番近い鹿生にも聞き取れたみたいで、鹿生が仁藤の肩をつかんで
「英基、そういえば、明日の法をどうして告発するなってしなかったんだ?」
と尋ねた。
鹿生の疑問は、俺の頭もよぎったことだった。
(そうだよな)
仁藤は、持ってたペンをポンと机の上に投げ出して
「バカだな、健蔵」
とだけ言った。
「バカって、英基」
別に鹿生は怒ってないらしく、仁藤の肩から手を離した。
仁藤は鹿生に向き直って
「健蔵、作れる法は、前の法に矛盾しないものってことになってるんだぞ」
と言うと
「ん?」
鹿生が首をひねる。
「一番最初から決まってる法の中に、法の違反は告発で確定するっていうのがあるから、そもそも告発自体できなくする法なんて絶対あり得ない」
「そうか?」
鹿生は、また首をひねった。
(それもそうか・・・)
鹿生は分からないみたいだけど、仁藤の言ったことが俺には解った。
「それもそうだな。それに、告発できなくなったら法を守らなくても罰せられないことになるから、決める意味もなくなって、そっちも矛盾だな」
中岡が続くと
「ん、まあ・・・」
鹿生は、腕組みして頭を後ろにそらした。
中岡の言うことも解る。
最初から決まってた7つってのは、ズラズラ放送で流したわりに、一つ一つが重い意味があるってことだ。
「英基、それより、戸田だ」
長谷田が仁藤の肩をたたく。
「ああ、そうだな」
仁藤の反応に、俺もさっきのことを思い出した。
そうそう、安齊が声を上げる直前まで、こいつらは、いつまでもそのままにしておけないから、まずは戸田を運びに行こうかって話をしてたんだっけ。
「できるだけ、みんな手伝ってくれ」
長谷田は仁藤だけじゃなく、集会室にいる奴等みんなに向けて呼び掛ける。
少し離れたところにいた田月が立ったのが見えたし、俺も立ち上がる。
昨日もやったから判ってる。
根津みたく小さい体の女子だって、死体になるとスゴイ重かったし、佐藤を運んでた奴らは、かなり重そうにしてた。
戸田は普通の体型だったはずだけど、男を袋に入れてから海まで運ぶんだ、人数が多いに越したことないはずだからな。
俺を入れて、8人で廊下に出た。
裁きに因る死亡者
戸田龍太
裁きに因らない死亡者
なし
国家の人口
27人




