8月3日-(8)-
集会室の中はスゴイ重い感じで、戸田がいないまま7時になった。
ちょっと離れた所にいる安齊と仁藤が話してて、仁藤が安齊に答えてた中身は俺にも聞こえてた。
安齊もさすがに戸田が死んだだろうことくらいは分かってるみたいだから、なんでそうなったのか、はっきりした説明みたいなのが欲しいんだろうけど、仁藤の話はどっか遠回しだ。
だから、同じような話が何回も繰り返される。
でも、安齊だとピンと来てない何かが俺には分かってきてた。
そりゃ俺も、最初は長谷田の言ってる意味がほとんど分からなかった。
今日あったことって、ほぼ100パー、戸田は死んだってことだ。
長谷田かなんかが、死んでた戸田を見つけた。
戸田の死んでた場所ってのが、体育館の倉庫みたいな部屋だ。
安齊が知りたいのは、戸田がどうして死んだかってことだろうけど、仁藤の話を何回も聞いてて分かったのは、それは、戸田が法を破ったからだ。
戸田が何の法を破った?
誰かをケガさせちゃいけないって法だ。
だって、まだ法は3つしかない。
他にあるのは、集会室に7時に集まるっていう、最初の日の法。
それから、昨日の、誰かを殺すなって法。
7時より前に戸田だけが死んだっていうんだから、最初のでも昨日のでもない。
そうなると、今日の、ケガさせるなっていうのしかない。
俺にも解ってきたぞ。
「みんな分かってると思うけど、明日の国王を決めなくちゃいけない」
さっきからずっと前に立ってる長谷田が言うと
「俺がやる」
すぐ仁藤が立ち上がりながら手を挙げた。
「英基の他にも誰かいるか?」
と長谷田が言ったけど、もう誰も手を挙げない。
「よし、じゃあ、明日の国王は英基だ」
長谷田は仁藤を呼ぶような手つきをしたから、長谷田がいる前の方に仁藤が出て行って、長谷田は空いてたところに座る。
「じゃあ、法を決めるぞ」
仁藤が言う。
最初の日、藍川の次が長谷田に決まったときもそうだったけど、これからは、次の国王が決まったら、そいつが司会みたいになってしまうのかもしれない。
仁藤は元々考えてたのだろう、前に出てすぐ端末の画面を見せながら
「傷を負わせないじゃ生ぬるいのかもしれないから、いっそもう暴力を禁止してしまうしかないと思ってる」
少し遠いから、俺には画面の字までは読めないけど、きっと『他人に暴力を振るうな』という感じのことが書いてあるんだろう。
「わたしはいいと思う」
真っ先に拍手を始めたのは前田で、賛成イコール拍手みたいなのも流れになってきてる。
「ま、別にいいんじゃなーい」
左前の方で陣取ってる森がパンパンパンと3回だけ手を叩いた。
パラパラパラと他の奴らの拍手が続いて、明日の法も承認されたってことみたいだ。




