8月26日-(7)-
袋をめくって、顔だけ見えるようにしてくれたので、半日ぶりでヒデくんと会えた。
「ヒデくん・・・」
裁かれた時、どんな気持ちになるのか、私には分からない。
想像できないし、想像しないできた。
ただ、私が送ったみんなの顔には、何とも言えない苦しさ悲しさが浮かんでたように思う。
なのに、ヒデくんの顔は、ほとんどのみんなと違ってた。
(そっか)
私が知ってる中では、美紗ちゃんみたいなきれいな顔だ。
「ありがとう」
私はヒデくんや健ちゃんだけがいるとき、笑ったり泣いたり怒ったり、してた。
嫌われる心配をしなかったし、後悔する予感もしなかった。
当たり前すぎて、いつもどおりすぎて、はっきりとスゴク恥ずかしすぎて、あまり言わないでいたけど
「ありがとう」
これは今だから言わなくちゃいけないこと。
「ありがとう」
めくってたところを直す。
「美結、いいのか?」
「なにが?」
「いや、その・・・」
健ちゃんが何を聞きたいのかはピンと来てる。
「私、お別れしたいって言ったけど」
だから私は、袋のひもを拾い上げて
「泣かないよ」
ギギッと結んで、立つ。
「送りに行こう」
「え?」
「健ちゃんも、栞那ちゃんも、手伝ってくれるでしょ?」
「美結」
「・・・」
玄関まで袋を運んで、ヒデくんをリヤカーに乗せると
「榮川」
静かだけど強い口調で言った後、健ちゃんは栞那ちゃんを見上げた。
「前から知ってたんだろ、あの決まりがあるって」
「あの決まり、とは?」
「臣民議会の出席登録だよ」
「ぁ」
私は、栞那ちゃんにそれを聞く必要なんてないと思ってた。
私もヒデくんも健ちゃんも知らなかったからって、あれくらいのこと知らないでいたら、そんなの栞那ちゃんじゃない。
だから考えてしまうこともある。
栞那ちゃんは自分の考えで国王になったんだから、藍川がうまくそれを利用しただけかもしれないけど
(でも)
昨日あの場に栞那ちゃんがいれば全然違ってたはずで、きっとヒデくんだって・・・
「議決があったのは19日だ」
「決まりがあるのを、昨日より前から知ってたんだな?」
栞那ちゃんがうなずく。
(やっぱり)
そう思ったのに
「どうして?」
もれた言葉が全然違ってしまい、慌てて口を手で覆う。
「美結?」
「・・・どうして」
どうにかごまかそうと
「決まりを知れずにいたんだろ、昨日まで、私」
ヘラッっと笑いながら
(・・・・・)
盗み見るように栞那ちゃんの目を確かめる。
(たぶん、大丈夫)
あの目つきなら、まだ私は栞那ちゃんに見えてる・・・だろう。
私が空気にならないためには、一番言いたいことを言っちゃいけないし、全力でヘラつくしかない。
今日こそ、栞那ちゃんがいなきゃダメなんだから。
(だって、ホントに、今は・・・)




