8月25日-(6)-
「時間」
「え?」
急に腰を押されてハッとして振り返ると、口元が見えた。
「栞那ちゃん?」
いつのまに来てたんだろう。
「・・・」
そしてもう一度腰を押すので、押されるまま集会室の中に入った。
栞奈ちゃんは廊下側の自分の席に座ったので、そこからは自分で歩いて、いつもの席に座ったら、健ちゃんが話しかけてきた。
「美結」
「なに?」
「こんなギリギリまで榮川と話してたのか?」
「あ、うん」
「そっか」
すると、ヒデくんの方から短いため息が聞こえた。
「ゴメン」
「何で謝るんだ?」
「うん・・・なんか心配かけたよね」
「まあ、な」
(・・・)
ボーッとしてただけなのか、ちょっと実は立ったまま眠ってしまってたのか、分かんない。
でも、集会室に入ろうとしない私を見て、健ちゃんとヒデくんは栞那ちゃんをまだ待ってるんだろうと思って、先に行ってしまったんだ、たぶん。
もう舟山さんと藍川くんは、集会室の中にいるって分かってれば、あとは栞那ちゃんが来るだけだし、私を1人にしてても大丈夫と考えたんだろう。
そして、一番最後に来た栞那ちゃんは、私がいつまでも集会室に入ろうとしないのに気づいて、朝集会に遅れて法律を破らないよう中へ連れて行ってくれた。
今あったのは、そういうことだったんで間違いないはず。
毎日、朝集会は特に何もすることがない。
だから、栞那ちゃんは、いつもの席で今日もノートに何かを書いてたけど、15分経ったのが分かると
(・・・・・)
黙って立って、集会室から出ていった。
その様子を2人とも見てたみたいで、ヒデくんと藍川くんは同時くらいに立つと、お互いの方へ行こうとした。
「何だ?」
「そっちは?」
「話があるんだ」
「俺もだ」
ヒデくんも藍川くんもチラッと廊下を見た。
「英基も藍川も同じ話のようだな」
「え?」
そう言った健ちゃんの方じゃなく、そのまま2人を見てたら
「夜集会の後でいいか?」
と藍川くんが言ったのに
「ああ、まあ」
ヒデくんが答えた。
「場所は?」
「ここじゃなきゃ、どこでもいいだろ」
「まあ、そうだな」
これで2人は分かったみたいで、ヒデくんが私達の方に戻ってきた。
「美結」
「はい」
「見てたとおり、臣民議会を夜集会の後に開くから」
「うん」
こんなことをわざわざ私に言うのは、藍川くん達に聞かせるためなんだろう。
「じゃあ、行くぞ」
「うん」
バッグを持って、ヒデくんの後ろを追う。
私の後ろには健ちゃんがついてくれて、集会室を出た。
「美結」
「え?」
「分かってると思うけど、榮川には黙ってろよ」
「・・・ぅ」
念を押されたと分かって胸がチクッとしたからか、のどに声が引っかかって出にくくなったので、ヒデくんには動作だけ大きくうなずくのを見せた。




