8月3日-(2)-
ほかにやることなんてないから、朝飯を食いに来た。
そうすると聞こえきたのは、「昨日何もなくて良かった」という感じのことを話してる女子達の声だった。
ムカつく。
俺に聞こえるくらい大声で、そういうことを言えるんだから、女子達は気楽だと思う。
「昨日何もなくて良かった」なんて、気楽な奴らだからこそ言えるんだし、少なくとも俺にとって昨日は、何もない一日なんかじゃなかった。
俺達は昨日佐藤と根津の死体を袋に詰めて、リヤカーに乗せて崖まで運んで、そこから海に落とした。
だって、今は8月で、夏なんだから、死体をそのままにしておくなんてヤバ過ぎるのは誰にでも判ることだ。
しかも、ホントなら、死んだらすぐに腐り始めるはずだから、死んだその日に片付けなくちゃいけなかったんだろう、昨日の朝だってもうひどい臭いがしてて、死んだ奴が生きてる俺達をヤバくさせるなんてあり得ないから、死体はどっかに片付けるしかなかった。
そりゃ、ホントなら死体を埋めるのがまともだろうってのは誰にでも判ることだ。
でも、スコップとかあればともかく、土を掘る道具がないのに、まさか素手で人を埋める穴掘りなんてするわけない。
海に死体を捨てるのが、普通じゃあり得ないのは確かだけど、他にもっといい方法があるわけないのだって、ちょっと考えれば判ることで、結局俺達は、二人の死体を海に捨てるしかなかった。
だいたい、死体を捨てさせられるだけでもムカってのに、死体の片付け方が普通じゃあり得ないからって、なんか俺達の方が後ろめたい思いにさせられるのはスゴいムカつく。
こんなことに巻き込まれて、訳分かんないっていうのに、そういうおかしな気持ちまで押し付けてこられる。
いったい、誰が何のために俺達にこんなことさせてるんだ?
最初、外を調べたときに玄関横に置いてあるリヤカーは何だと思った。
建物の中を調べた女子達が、倉庫に寝袋みたいに大きい袋がたくさんあるって言ってるのを聞いた時も、それって何だと思った。
昨日になって、思い当たった。
要するに、用意されてる袋に気付いた俺達が、死んだ奴を袋に入れること、リヤカーを使って崖から海に捨てること、それを全部誰かが読んでたってことだ。
まあ、俺達にこんなことさせる奴にとって、死人は当たり前に出るってことで、袋とリヤカーをあてがっておけば、あとは俺達が死体を勝手にどうにかするだろうって確信してやがるんだ。
(・・・・・)
誰かの手の平で踊らされてるってのくらいムカつくことはない。
でも、だからってどうすることもできないのは、もっとムカつく。
まったく、ムカつくことばっかりだ。




