8月23日-(9)-
「前田さんと美結さんには感謝している」
「え?」
急にそんなことを言われたので、ビックリしながら栞那ちゃんの方を見ると
(!)
考え事のしぐさを始めた。
「まだ美結さんには言えるな」
「は?」
目の前で栞那ちゃんの頭が私の胸の辺りまで下がった。
「ありがとう」
初めて栞那ちゃんのおじぎを見た気がして
「なっ、なにが?」
思わず後ずさりした。
「美結さんにあの手紙を見せてもらえなければ、私も完全には確信を持つことができなかった」
「あ、うん」
「最も違反した数が多いのは自然法だった」
「うん」
(別な話?)
なんかつながりのないような話だけど、栞那ちゃんのことだ、私が分からないような関係の話なんだろう。
「国王の法は、裁きが進むのを早めただけ」
「・・・」
それは確かに一度、私も思った。
でも、国王が不可侵なこと、臣民議会で否決されると裁かれることは、初めからある法律で決まってた。
だから結局、国王が法律を作らなければ裁かれることがない、っていうのも間違い。
「しかし、今の状態は、誰かを法で裁かせようとした意志の結果」
「うん」
さすが栞那ちゃんだ、これもスゴク正しい。
法律違反が裁かれる原因だからって、誰かが違反を告発しなければ絶対に裁かれないのは、私だってすぐ理解した。
それがあって、私達は告発してもいい時間を短くしようとしたし、実際に短くできた。
だけど、告発そのものを法律違反にできてない。
どうやら、初めからある法律が告発を認めてて、先にある法律に矛盾する法律を後から作れないのも法律で決まってるから、告発を法律違反にすることが法律違反になってしまう、ってわけのようだ。
「告発だけじゃない」
鈍い私が何日もかかって、やっとたどり着いた答え。
「法律を作るだけでも、間接的に誰かを殺すことにつながる」
「・・・」
「進んで誰かを裁かせようとした人もいただろうし」
「・・・」
「そんなつもり全然なかったのに、裁きを早めてしまった人もいたと思う」
「・・・」
「そういう意味ではみんな、お互いに誰かを死なせてしまった」
「・・・」
「私も含めて、みんなが」
「美結さん」
何も言わないで聞いてくれてた栞那ちゃんが、急に私の目の前で手を開く。
「なに?」
きっと私に言いたいことがあるんだと思ったので、聞くことにした。
「裁きに対し責任を感じても構わないが」
「うん」
「一人ひとりの関与には、大小、強弱の違いがある」
「うん」
「美結さんは」
「いい!」
今度は私が栞那ちゃんの前で手を開いて
「いいよ、もう」
自分が一番作り慣れてる、へラッとした薄っぺらい笑顔を浮かべて、頭を左右に振る。
「もう、言わなくていいよ、栞那ちゃん」




