8月23日-(7)-
「着終わった」
栞那ちゃんがそう言ってくれるのを待ってたので、すぐ向きを変え、口を開く。
「あ、あのあの、栞那ちゃん」
「なに?」
でも、栞那ちゃんは入口を見つめたまま私の方を見ない。
「っと・・・メモ」
このままじゃ声が出なくなりそうに思ったので、ギュッと両手を固く握る。
「あの、栞那ちゃんは、もうメモの意味って」
「・・・」
栞那ちゃんの手が顔の辺りまで上がるのが見えたので
「あ、あの、メモってね、私がはさんだ、ノートに、栞那ちゃんが落としたときの・・・ね?」
手を開かないまま、しどろもどろで必死に言葉をつなげる。
「うえ、にせんひゃくよん、かなりらんぼうか、はっせんさんびゃくさんじゅう、すみ、しーてんそーなら、みるてん、はこはこ、っていうのだけど」
「・・・」
「栞那ちゃんだもん、分かってるよ・・・ね?」
「おそらく」
ポツッとした答えなのは、栞那ちゃんだって自信がないからかもしれない。
(まあ、読めたと思えるのがビックリだけど)
「いいの、栞那ちゃんの読み方で」
壁に右手をついて、思い切りグイッと顔を近づける。
「・・・」
すぐ近くの青い視線がまっすぐ向かってくるけど、ここで見返さないといけない。
「教えてよ」
すると、私を見つめたまま唇が開く。
「私の読み方を声に出すなら」
「うん」
「ウエ、ニィイチゼロヨン、ヨシナリ、ラン、ボウ、リキ、ハチサンゼロゼロ、タン、シー、ソー、ナラ、ミル、ミタ、だと思う」
「は?」
「あの頃次々裁かれる人達が出たのは、森と三田の企みだったと教えるための手紙」
「え?」
栞那ちゃんは手の甲を口に当てて
「・・・たほ・・・るか」
何か言うと、バッグから出したいつものノートにサラサラッと何か書いて
「美結さん」
破いたページを私に渡す。
「あれで本当に書きたかったのは、この文字列」
「うん」
ページに目を向ける。
上2104可成蘭坊力、8300 tongue see・sawなら見る・□□?
今までも見たことあるんだろうけど、覚えがないから、意識して栞那ちゃんの字を見たのは初めてかもしれない。
「・・・」
10秒くらいの走り書きなのに、とてもキレイだった。
(違う)
そんなことじゃなくて、大事なのは栞那ちゃんが解読?できたわけだ。
「調べたところ、2104とは、図書コードで中世の歴史を表す」
「はぁ・・・」
「中世の歴史で、可成、蘭、坊、力と続くから、可成と息子達の森家と判る」
「え?モリケ?」
「同じく、8300とは、英語を表すコード」
「英語?」
「tongueとは和訳すれば舌のことだし、sawはseeの過去形だから、見る、の過去形が箱に入る」
「見る・・・過去・・・」
「あのメモで伝えたいことを、最も要約するなら」
「うん」
「ウエ、モリ、シタ、ミタ」
「っ!」




