8月22日-(4)-
顔を洗うためと栞那ちゃんと話すためにトイレに行ったけど、結局会えなかった。
「あ!」
それで食堂に来たら
「おはよう、栞那ちゃん」
ご飯を食べてる途中みたいだけど、ここに栞那ちゃんがいた。
「・・・おはよう」
手を止めて、顔を上げて、私の方を1回見てくれた。
「うん」
最初のころは、ううん、何日か前だって、私が声をかけたって栞那ちゃんは、手を止めたりこっちを見たりしなかった。
だからだろう、つい口の端が上がってしまうのは自分でも分かった。
「栞那ちゃんは今日も和食なんだね」
「・・・」
「あとで話したいことがあるの、ご飯食べ終わったら少し待っててくれない?」
「・・・」
「ちょっとだけでいいの」
「・・・」
栞那ちゃんが左の手の平を私に向けた。
(いい、ってこと・・・かな)
「ありがとう。できるだけ早く終わらせるからね」
「うん」
「じゃ」
自分のご飯を取ってこようと思って向きを変えたら
「美結」
目の前にトレイに載ったパンケーキとオレンジジュースが出てきた。
「どれがいいか分かんねぇけど、榮川を待たせるくらいなら、これにしとけよ」
「健ちゃん」
「俺と英基は2人で集会室に行くから」
「ありがとう。私は栞那ちゃんと行くよ」
「ああ」
健ちゃんが持ってきてくれたトレイを栞那ちゃんの隣の席に置いて座る。
「これなら速く食べれるはず」
と言ってから口いっぱいにほおばる。
「・・・」
チラッとそっちを見たけど、やっぱり栞那ちゃんは私の方なんて全然見ない。
でも分かってる。
必要もないことをしゃべらないのは栞那ちゃんにとって普通だし、違うときは違う、ダメなときはダメと言うはずだから。
ほおばるたびに少しだけジュースを飲んで、口の中を溶かさないと栞那ちゃんに追いつけないかと思って、結構必死にモグモグとする。
(終わった)
あごは動いたまま口をふいて栞那ちゃんの方を見ると
「っ!」
青い瞳と視線がぶつかった。
「・・・お待たせ」
「・・・」
私を見たままトレイを持って立ち上がる栞那ちゃん。
「あ」
慌てて私も立つ。
トレイ置き場に栞那ちゃんが置いたその上に自分のを重ねて、食器は置き場のわきの四角い穴に滑り込ませる。
この穴、トレイは入れれないけど、使った食器は小さなバスタブみたいになってるところに溜まるみたいだ。
朝はここの食器が空になってるから、夜中にでも裏の機械が洗ってくれるんだろうけど、食器みたく穴に入れれないトレイは使い回しだし、汚れたらふくか何かするしかない。
入口に一番近い席でヒデくんと健ちゃんが食べてた後ろを
「・・・」
栞那ちゃんは無言で通り過ぎたけど
「じゃ、後でね」
私は小さく2人に手を振って、栞那ちゃんの背中を追うみたいに食堂を出た。




