8月21日-(1)-
殻を潰さなくたって
卵は立てられたはず
目を開けると壁だった。
(こっちは・・・と)
寝返りすると、すぐ後ろに優秀くんがいた。
(良かった)
昨日、ずっと邪魔だった他の誰かは全員いなくなったから、やっとここが私達二人だけの部屋になったんだった。
肘をついて横向きになると、まだ眠ってる優秀くんの顔を見下ろす。
(・・・・・)
両親は一人っ子のわたしを可愛がってくれてたと思う。
でも、祖父母の態度は他の孫より冷たい感じだったし、幼稚園に通い始めてしばらくした頃、他の子達と比べて自分の容姿が劣っていて、要するにわたしは可愛くないんだって気付いた。
元々引っ込み思案だったせいで友達もできなかった。
だから当たり前に学校では独りだったけど、勉強さえできれば先生も親も何も言わなかったから、真っ直ぐ家に帰って勉強したり本を読んだりして過ごしていた。
当然、性格は暗くなったし、他人とうまく話せなかったし、お世辞にもやせてるとは言えない体型にさえなった。
そうしてますます、わたしは誰とも関わらないようになった。
何の希望もないまま、真っ暗な重苦しいだけの気分で修学旅行の日の朝を迎えたまさにあの日、とうとうわたしの人生が変わったんだ!
でもすぐ変わったわけでもなくて、まずは最初の日の部屋決めがあった。
どうせ仲良し同士みたいなので固まっちゃうだろうと思ってた。
今までもずっと何かのグループ分けするときいつもそうだったように、わたしみたいなのは、お情けでもらえた場所を受け容れて、そこで大人しくしてるしかないと分かってる。
まあ実際、部屋分けそのものは大してわたしの想像と変わらない感じで進んで、次々塊ができていく。
そういう中で、わたしとか一ノ木さんみたいに硬直してしまってる人を誘ってくれたのは曽根嶋さんと千賀さんだったけど、そのこと自体には感謝しなかった。
たぶん、ああいう誰にでも気を遣ってるような優しい振る舞いを見せる人達は、いつまでも余り物になってる人にさえ良くしてあげれる自分が大好きみたいだ。
だから、そういう感覚に酔えるわけだし、自分達の気持ちを他人に押し付けることで満足できるわけだから、別に、かわいそうに思ってる相手からのお礼までは望んでないんだって分かってた。
ただまあ、結果そうなったとはいっても、優秀くんと一緒の部屋になれたのは二人に誘われたおかげなんだし、二人が自分の命を使って教えてくれたことは役に立ってる。
死んだ後まで人助けができるいい子になれたんだ、二人にも悔いはないだろう。
それに、今だったら曽根嶋さんと千賀さん以外のもういない人達にも感謝してあげれるような気がしてきた。




