8月20日-(6)-
フーッと2人ほとんど同時に息が漏れた後、何もかも止まった。
息を引き取るっていうのは、全くそのとおりだ。
「行くぞ」
「え?」
「ここに明日まで転がってられたら邪魔だろ?」
「・・・」
言葉は出なかったけど、頷くことはできた。
「死体の扱いに慣れた奴らに片付けさせるのが手っ取り早い」
「・・・」
(確かに)
今までもずっと見送りとかいう作業をしてきたんだし、この2つを片付けるのだって安齊さん達ならお手のものだろうと思うから、1回コクッとする。
「じゃ、まず食堂行くぞ」
「・・・うん」
この人に付いていけば何も怖くない。
「食堂で当たりだったな」
「・・・」
優秀くんの言うとおり、安齊さん達は食堂にいるみたいだ。
「よし、涼香は中まで入ってくるなよ」
「う、うん」
優秀くんは食堂に駆け込んで行ったけど、わたしは言われたとおりドアの所で立ち止まった。
「藍川?」
優秀くんはグルッと部屋の中を見回して、鹿生の方を向いた。
「一緒に来てくれ」
「何だよ?」
鹿生がイラッとした感じのままの答えたところにかぶせるみたいにして優秀くんが
「田月と村井が」
と言うと
「なに?」
勢いよく立ち上がって優秀くんの方を向く仁藤。
「・・・」
安齊さんはオロオロとあちこちに視線を泳がせてる。
「仁藤も鹿生も来てくれ」
という優秀くんの言葉に
「ああ」
鹿生は頷いて
「美結」
仁藤が下向きの指4本を曲げたので、安齊さんもテーブルの上のバッグを掴んで立つ。
「こっちだ」
優秀くんと鹿生と仁藤がわたしの前を通り過ぎてから、3人の後を追って食堂を出ると、私の後ろに安齊さんが続いた。
「・・・・・」
早足でみんな後ろを歩きながら思った。
取り立てて頭の良くない私にだって、村井くんと田月くんに何かしたのは藍川くんか舟山さんだろうと分かってるんだから、ヒデくんは当然、健ちゃんだってそれに気づいてるだろうけど、行かないってわけにもいかない。
「美結さん」
「!」
角を突っ切ったとき、急に背中の方から声がした。
(栞那ちゃん?)
「村井達か?」
「そう・・・みたい」
「私も行く」
「うん」
初めてちょっと振り返ったら、当たり前だけど栞那ちゃんがいて、しかも両腕に袋を抱えてた。
(あ・・・)
そういえば、これからしなくちゃいけないことは分かってたのに、うっかりしてる私は大きな袋の準備を忘れてしまってた。
バッグは持ってきてるからポリ袋の方は大丈夫だけど、一番大事な大きな袋がなかったら誰かが食堂に取り行かなきゃいけなかったんだし、気がきいてるってより冷静と言うしかない栞那ちゃんに助けてもらった。
「ありがとう」
横に並んだ栞那ちゃんに笑いかけたつもりだったけど
「・・・」
もちろん返事は、なかった。