8月20日-(2)-
朝ご飯に行く途中、ドアの外に健ちゃんとヒデくんを残してトイレに入る。
一番奥の個室を閉めて中にいるのなんて栞那ちゃんに間違いないだろうけど
「栞那ちゃんかなぁ?」
ホントに一応言ってみると、ロックを外す音がして栞那ちゃんが出てきた。
「おはよう」
「おはよう」
私自身は栞那ちゃんと今日からどう接したらいいかちょっとよく分からなくなっちゃってるのに、やっぱり栞那ちゃんは、いつもどおりとしか感じれない。
「・・・栞那ちゃんは、朝まだでしょ?」
「まだ」
「そう」
(・・・・・)
美紗ちゃんの手紙を読んでしまったから、私は栞那ちゃんに聞いて確かめたいことがある。
でも、それは健ちゃんやヒデくんのいるところではスゴく聞きづらいし、今みたく短い時間で聞けそうでもない。
「朝集会の前に、廊下で話せる?」
「分かった」
「お願いね」
栞那ちゃんが無言でうなずいたので、いつまでも健ちゃん達を待たせるわけにもいけないし、私は顔を洗うことにした。
「じゃ、また後で」
顔を洗い終わったので、一番奥の個室まで届くように言ってからトイレの外に出る。
「ゴメン、ちょっと遅くなっちゃった」
「いいさ、行くぞ」
「うん」
健ちゃんの後ろ、ヒデくんの前を、食堂に向かって歩き始める。
(・・・・・)
部屋からここまでだってほとんど2人とおしゃべりをしてない。
昨日までは、健ちゃん達が自分から話すのを待ってるんじゃなくて、大体は私が一方的に話しかける感じだったけど、今スゴく口が重くなってる。
実は栞那ちゃんとだけじゃなくて、2人ともどう接したらいいのか分からなくなってしまったのかもしれない。
(ゴメン・・・でも私は、こんなだから・・・)
ちゃんと原因はハッキリしてて、美紗ちゃんの手紙を読んだからだ。
いろんなことが書いてあった。
自分が知ってることがどんなに少しだけだったか、自分が知らないことがどんなにいっぱいあったか。
そういうのを全部、私は見えてるのに見えないふりして、知ってるのに知らないふりして、気づいてたのに気づいてないふりをしてきた。
目をそらしたり何も考えないようにしながら、ずっと現実から遠ざかろうとしてきたのに美紗ちゃんの手紙が私の逃げ場をなくしてしまったから、私は私の覚悟を決めなくちゃいけない。
「美結」
「え?」
「さっきのトイレに榮川がいたんだろ?」
ヒデくんの方に振り返ったけど、別に怒ってるようには見えなかったし、ホントのことを答える。
「うん」
「何か言ってたか?」
「栞那ちゃんとは、あいさつしただけだよ」
これもホントのこと。
「そうか」
なのにヒデくんはフッと短く、何となく残念そうなため息をもらした。
(ヒデくん、栞那ちゃんを?)