8月19日-(5)-
朝集会なんて呼んでるけど、夜集会と違って国王を選ぶとか内容があるんでもないし、森の作った法のせいで9時から30分何もすることがないまま過ごすだけっていう集会とは呼べない単なる無駄な時間だ。
することがないのに人が多かったころは、特に女子なんかは下らないおしゃべりをして過ごしてたりしたが、こうまで人が少なくなると雰囲気も重くなって話す奴はいないし、今だってみんな自分の端末をいじるか、集会室の中を見回すか、ボーッとしてるか、そのくらいしかやってない。
夜集会に来なくて、結局死んでたという奴は最初のころ何人かいた。
でも、前田のように朝集会に来ないという奴は初めてのはず。
まあ、今日になってから朝集会までの間に前田に何か起きたとは限らないし、もう告発できる時間は過ぎてるから、来ないことを理由に裁かれたりはしないわけだが、普通に考えれば森が関わってることは間違いない。
昨日までは集会室の中でも外でも三田を連れていた森は、三田も猪戸も矢口もいなくなったことで集会室では独りだし、もう話し相手もいないから机に突っ伏すみたいな格好で端末をいじってる。
(何したんだ、あいつ)
夏なのに冷房もない建物で過ごしてるおれ達だから、上はずっとTシャツとかノースリーブを着てるし、森も同じだったはずなのに、薄手とはいっても今の森は長袖を着てて、何よりも変な感じがするのは、ストールっていうんだっけか、首にグルグル巻きつけてることだ。
集会室の時計が9時31分に変わった。
最初に席を立ったのは森で、次が仁藤。
安齊がおれの前を小走りで通り過ぎていったのは、たぶんすぐいなくなることが多い榮川を引き留めるためだろうし、実際すぐに榮川を呼ぶ安齊の声が聞こえた。
安齊と榮川、仁藤と鹿生は集会室を出て行ったので、安齊が榮川と何を話してるのか聞こえないが、前田のことしかないのは想像できるし、榮川に訊いたって何が分かるわけでもないと思う。
「俺達も行くぞ」
「ああ」
田月に言われるまでもなく、ここにも長くはいれないのは分かってるので、おれも席を立ってリュックを肩に掛けた。
一旦自分達の部屋に戻ろうかと廊下を曲がったところに、壁に寄りかかってる森がいて、つまらなさそうにこっちへ視線を向けた。
「何だ?俺達に用なのか?」
田月が言うと
「今日からさ、あんたらの部屋に入れてよ」
昨日までと全然違うかすれた声で答えた。
「その変な声、どうしたんだ?」
おれが訊いたのには答えないで
「あたしんとこは美紗の死体があるだろうから」
顔をしかめる。
「そうか」
実際、集会室にいる間、前田が生きてると思ってた奴はいなかっただろうし、森の言葉も別に驚くことじゃない。