8月19日-(4)-
「どう思う?」
「・・・」
栞那ちゃんがまず右手、少しして左手のゲンコツを口に当てる。
「あ、あのね、あの、別に答えじゃなくて、栞那ちゃんがどう思うか・・・を言ってくれれば」
「・・・」
結局考えがうまくまとまらなかったので、自分でも何を聞いてるのか分からないような話を栞那ちゃんにしてしまったけど、それを黙って聞いてくれてた栞那ちゃんは、私に何て答えていいか迷ってる感じだった。
(どうしよう)
健ちゃん達にも言ってない美愛の手帳のことを栞那ちゃんだけには話した方がいいとも思えないのに、それを言わないで美紗ちゃんのおかしさを説明できる自信もない。
それに、そんな離れた場所に健ちゃん達がいるわけでもないから、栞那ちゃんに言ったことは全部聞こえてしまうはずだし、別な入口の前には村井くんとか舟山さんが来てしまったから、よけいに美紗ちゃんと手帳の話はできなくなってしまって、もう終わりにするしかなくなってしまったみたいだ。
「時間」
ポツッと栞那ちゃんが言うので
「え?うん」
下を向いてしまってた顔を上げたら、集会室に入れる時間になったみたいで、栞那ちゃんは私を見ることもなくドアに手をかけるところだった。
(また、失敗・・・か)
「美結」
健ちゃんに背中を指で押される。
「うん」
落ち込んでもしょうがない。
私が聞きたいことをうまく栞那ちゃんに教えてもらったことは、ないんだから。
健ちゃんとヒデくんの後から集会室に入ると、いつもの席に座って、一旦バッグをイスの下に入れたけど、やっぱり思い直すと膝の上にバッグを上げて、ゆっくりと留め金を外す。
とうとう、この時が来てしまった。
バッグから美紗ちゃんに渡された美愛の手帳を出して机の上に置く。
5分前だし、まだ全員集会室に来てるわけでもないから、朝集会の前ってことなら今しかない。
メモ帳をパラパラッとすると、美紗ちゃんの手紙って何ページ分も書いてあるみたいで、今全部読み終えれるのかなとも思ったし、何書いてあるか怖いのもあって、おっかなびっくり表紙をめくると
(!)
最初の1ページが一気に目に飛び込んできた。
美結ちゃんへ
今そこに
わたしがいますか?
アリサがいますか?
どっちか?
どっちも?
いないよね?
すぐパタッとメモ帳を閉じてしまった。
(・・・・・)
今自分の顔を鏡で見たら、絶対真っ青なはずだ。
「9時まで2、3分なのに、前田はどうしたんだ?」
健ちゃんが言ったら
「そういえば、食堂でも見なかったし、まだ今日は見掛けないな」
ヒデくんも続いた。
2人の言うとおり美紗ちゃんは、まだ集会室に来てない。
なのに、今日から周りに誰もいなくなった席に一人ポツンと座ってるのは・・・