8月19日-(1)-
バカな奴等は見えてるらしいが
新しい王様の服は色も形もない
目が覚めたということは、わたしがまだ生きてるってこと。
(まぁ、そうだよね・・・)
一応、わたしなりに自分が今朝を迎えれるような対策を考えたんだから。
昨日のうちは国王だったから、みんなわたしを避けてたはずで、独りでいても危なくなかったけど、日付が今日になれば、そういうのもなくなってしまう。
だから、この部屋に来た。
妹の鈴木さんが倒れてたこの部屋は、開け閉めが自由だから誰でも出入りできるんだけど、やっぱりどこか気持ち悪くて近寄る人なんていないと思ってたから、独りで一晩過ごすのには都合が良かった。
でも、誰かがドアを開けたらすぐ分かるように、ストッキングでドアノブと自分の腕をつないでおいた。
ストッキングをほどくと手首がほんのり紅くなってて、手首をさすりながら部屋を出る。
(心が決まったから・・・か)
この程度の対策だけで、すぐ寝入ったみたいだし、朝まで一度も目を覚まさなかったのは、安心して眠ったわけじゃなく、もう自分がどうなるかある意味何でも良くなってただけ。
(それに・・・)
他の人達と違って、わたしは最初の日から10日以上もこの部屋で過ごしてたから、一緒の部屋にいた人達といろんな話をしたし、ここに来てからは何だかんだといって誰かがいる部屋で寝起きできてたのも、この部屋にいれたことが何より大きい。
(独りで寝起きするのなんて、家にいるときは当たり前だったのに・・・)
鈴木さん達、星くん、内海くん、中岡くん。
そして、長谷田くん。
この部屋であったことを知ってる人は、もうわたししかいないけど、そのときのことを昨日がかえってぼんやりしてしまうくらいハッキリ思い出せるのは、楽しいというほどじゃなくても、今思えばそこそこマシな時間を過ごせてたからかもしれない。
だから、記憶から消してしまいたいこの5日ほどのことは、はるか昔だったような気にさえなる。
とても廊下は静かで、ここまで来る間に聞こえたのは自分の足音だけ。
ドアノブを引くと、簡単に開いたので部屋の中に入る。
(・・・)
手前の部屋は暗く、少し目が慣れてきて部屋の中を見渡したら、タオルを布団と枕にした愛麗沙は眠ってるようだ。
昨日の夜集会の後すぐいなくなったはずだし、たぶん今日になってからだろう、この部屋に来たのは。
わたしは自信がなくて、ストッキングで自分をつないでないと寝れなかったけど、こうして簡単に部屋に入れるんだから、愛麗沙には見栄とか空いばりじゃない本物の自信があるんだろうか、とか思う。
(・・・・・)
持ってたストッキングを愛麗沙の首に1回巻いた。
(わたしが・・・)