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LEVIATHAN~Sodalis~  作者: 黄帝
183/267

8月18日-(10)-

 夜集会の後、集会室を出てすぐの廊下。

「わたし、ずっとお願いしたかったことがあるの」

「え?私に」

「うん」

前田さんは自分のバッグに手を入れながら

「名前で、呼んでもいい?」

と言うからビックリはしたけど

「いいよ。美結って呼んで」

うなずく。

 「美結ちゃん」

「なに?」

「これ」

バッグの中から私の前に出す。

(え!)

「これ、美愛のじゃ?」

前田さんはそれに答えないで

「亡くなったら他人に入らないって、榮川さんが言ってたでしょ?」

メモ帳を私の手に載せた。

「必ず、明日の朝集会の前に中を読んでね」

「前田さん?」

前田さんと手の上を交互に見ると、前田さんは首をゆっくり振る。

「わたしも美結ちゃんから名前で呼ばれたいな」

「え?」

「お願い」

「美紗・・・ちゃん」

小さくうなずいて、元々かなり美人な美紗ちゃんがフッと浮かべた、スゴくキレイな笑顔。

 こんなキレイな笑顔を見たのは誰のも初めてだった。

 「美結ちゃん」

「なに?」

「ハグしたい」

「え?」

どうしていいか戸惑いながら、でも、うなずいた。

「ありがとう」

キュッと私をハグしてから、ちょっと離れた。

「・・・」

美紗ちゃんは、何も言わず真っ直ぐ私を見つめて、今度はニコッと笑った。

 そしてまたハグ。

 ギューッとされて、ほんの少し苦しいくらいだ。

「美結ちゃん」

「ぅ?なに?」

「大事なことは口に出して言わないと伝わらない、それってホントだよ」

「え?」

「明日ってね、来なくなるまでは、必ず来るんだよ」

「え?え?」

わけが分からない美紗ちゃんの言葉は、息苦しさと混ぜこぜになって私の頭の中をかき回す。

 急にフワァーッと身体が楽になった。

「美結ちゃん」

ハグをやめた美紗ちゃんが、1歩後ろに下がった。

「ん?」

「明日が来ることだけは、絶対疑わないで」

キレイな笑顔は、まだそのまま。

「どんなときも明るくて、前向きで、誰にでも優しくて」

(なんか急に・・・)

「いつもどおりの美結ちゃんでいてね」

声の感じが変わった気がする。

「ずっと、そのまま」

美紗ちゃんは、立てた右手の小指を前に突き出すと

「約束、だよ」

そう言ってゆっくりと、私にはスロー映像でも見せられてるみたいに感じるくらいゆっくりと、身体の向きを変えた。

 私にすっかり背中を向け終わると、歩き出す。

「美紗ちゃん」

返事がない。

「美紗ちゃん、待って!」

やっぱり返事がない。

(・・・・・)

 返事がない背中を見るのは、栞那ちゃんので慣れてるはずだし、今日だって不安を感じることなんてなかった。

 でも、美紗ちゃんと栞那ちゃんとは全然違った。

 あの背中には、スゴい不安が・・・

 裁きに因る死亡者

  三田珠美佳

  猪戸あかり

  矢口広魅


 裁きに因らない死亡者

  なし


 国家の人口

  10人

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