8月18日-(9)-
玄関の外までは廊下を3人がかりで1人ずつ3往復で連れて行き、でもリヤカーにも1人ずつしか乗せれないので、また海まで3往復する。
この仕事を栞那ちゃんに手伝ってもらうのが実は初めてだったから、何をお願いしていいか分からなかったけど、体を収めるとき最初に袋を裏返すとか、リヤカーへの袋の乗せ方とか、私が今まで気づくことも考えることもなかった手際で、もちろんそういうのはスゴい栞那ちゃんらしかったし、今ごろ、こんなときになって感心してしまった。
3人を海に送ってあげるまでは、誰も一言もしゃべらないでいて、私もできるだけ何も考えないようにしていたけど、3人目を送り終わったところでヒデくんが
「前田、説明してくれるか?」
前田さんに言う。
「・・・うん」
前田さんがヒデくんに話してくれたのは、三田さんを裁かせた後、森さんと2人で猪戸さんと矢口さんを部屋に置き去りにして告発したこと、3人には裁かれるような落ち度なんてなかったから裁かれるよう森さんが仕向けたこと、だった。
「・・・・・」
聞いたヒデくんも、どう反応すればいいか困ってる感じだし、健ちゃんでさえ、気分が悪そうな顔つきをしてるのに、栞那ちゃんだけは、私に分かるような変化を一つも見つけれない。
「一度に3人も・・・」
確かに5人裁かれてしまった日もあったけど、ホントにどうしようもなくヒドい不幸な偶然が重なったせいだ、って思い込むようにしてた。
(でも、今日のは・・・)
前田さんが話してくれたせいか、森さんの振る舞いが原因となって、当然のこととしてこんなふうになってしまったんだってしか思えない。
「どうして・・・こんな・・・」
胸の前で握った両手を、振り下ろす。
「美結さん」
後ろからした声は栞那ちゃんだろうけど
「・・・」
ぐちゃっとした気分のせいで頭が重くなって、私は下だけ見てた。
「私達は前に進める」
「・・・」
「美結さん、顔を上げて」
また後ろからの声は、いつもと少しだけ違う強い口調で
(!)
私は、そのとおり顔を上げてしまう。
「未来は前。後ろや下にはない」
「え?」
体ごと振り返ったけど、見えたのは私に背を向けて行ってしまう栞那ちゃんの後姿だった。
「行っちゃったね」
前田さんが私の横に来た。
「未来、か・・・」
「・・・」
「急でゴメンね」
「え?」
「夜集会の後、少し話せる?」
「あ、うん」
私が思わずうなずくと前田さんは
「仁藤くんと鹿生くん、夜集会の後に廊下で安齊さんとちょっと話したいんだけど、いいかな?」
健ちゃんとヒデくんの方を見ながら言う。
「ああ」
「分かった」
2人の答えを聞いてから、私を見る。
「じゃ、安齊さん、お願いね?」
「うん」
「中に戻ろう?」
「うん」