8月18日-(6)-
「っ!」
珠美佳とぶつかったわたしは後ろに倒れ、両手と尻もちをついたところで、同じ体勢になった珠美佳と顔を見合わせた。
「ダメじゃーん、珠美佳。今日美紗は国王なんだよー」
そう言いながら愛麗沙は、わたしに見えるようにして端末を口元に持っていく。
(え?まさか、これ)
「三田珠美佳が、国王の体にぶつかりましたー」
「あ?」
もう1回珠美佳と視線が合った。
「あーっ!」
スゴい声をあげた珠美佳は
「あ、あ、あ」
両手両膝を床についたまま、トカゲみたい格好で、なぜか愛麗沙とは反対の部屋の奥へと這っていく。
「がぁっ!」
急に右にゴロッと転がって仰向けになった右腕のない珠美佳が
「なんでーっ!」
叫んだ途端、ぼ、って感じの変な声と一緒にお腹の辺りから何かが噴き上がった。
その後も少しの間、犬が吠えてるみたいなうなり声が聞こえてたけど、もう1回お腹が弾けた後
「ぉ・・・」
珠美佳は動かなくなった。
その瞬間、凍ったような目を見開いたまま愛麗沙とわたしを見てて、絶対に珠美佳の方には振り返らなかった猪戸さんと矢口さんが腰を抜かしたみたいにペタンとその場に座り込む。
「・・・」
わたし自身、誰かが裁かれる一部始終をはっきりと見るのは、これが初めてだったけど、昨日の夜と同じで、なんか全部がゆっくり長い時間かかって起きたことみたいな気がした。
「じゃ、あたし食堂ねー」
「・・・」
「食堂からー、珠美佳入れる袋?持ってくるよ」
「ぇ?」
あまりにも愛麗沙に似合わないことを言うのが聞こえてきて、我に返った。
「美紗も来て」
「ぁ?」
私に手を差し出す愛麗沙。
「あかりと広魅は、ここで待ってて」
まだ2人の顔は固まったままだし、声も出さないし、首を縦にも横にも振らない。
「ほら、美紗、行くよ」
「・・・」
愛麗沙についてくつもりなんてないのに、また腰を上げてしまった。
わたしの左肩をそっと押しながら奥の部屋を出たところで、愛麗沙はドアに寄り掛かった。
(何を・・・)
「美紗」
「・・・」
「あかりと広魅、マジうまくやったよねー」
「あ、あれって」
「なに?」
「愛麗沙・・・が?」
「そ。あたし、あの子らに頼んどいたの」
「・・・」
「1、2、3で、珠美佳を美紗に向けて飛ばしてやってって」
(やっぱり・・・)
「あ、5分経っちゃう」
愛麗沙は急に慌て始め、持ってた端末を口元に当てた。
「矢口広魅と猪戸あかりはぁ、三田珠美佳に暴力を振るいましたー」
「!」
極悪の冗談みたいな告発を聞いたわたしは、思わずガン見してしまったけど、愛麗沙は無表情だった。
「仕方ないよ」
腕を組んで、ポツッとそう言った愛麗沙の背中の向こうからは、続けざまに2つ、悲鳴みたいな声が聞こえてきた。