8月18日-(4)-
部屋に入る2人を見送って、安齊さんがわたしに振り向いた。
「前田さんの作った法、見たよ」
「うん」
できるだけ軽い感じで
「あれ、どう思った?」
わたし以外の人がどう思ったか訊くことにした。
「私が?」
「うん」
ギュッと目をつぶる。
「考えたなー、って思うよ」
「?」
思ってたのと違う安齊さんの答えに戸惑ったまま、ゆっくり目を開く。
「そう・・・かな」
「うん。他人の端末に触るなだけだと、ムリヤリ触らされたら裁かれるけど、自分の意志をつければ、ムリヤリ触らされても裁かれない、ってヒデくんが言ってたし」
(仁藤くんが・・・)
「うん」
「誰も傷つけないでみんなを守れる」
「・・・」
「全部こういうのにしてくれてたら良かったなって、ホント私思ったよ」
「・・・そうだね」
安齊さんの顔をまともに見れないから、下を向いてしまった。
安齊さんから伝えられた仁藤くんの言葉と安齊さん自身がくれる言葉をただ素直に受け取って、もらった言葉を嬉しく思ってしまったら不謹慎なのだろうか。
(だって)
何人も裁かれたから知れたこと、何人も裁かれなければ気付けなかったこと、わたしの法は、そういう何人もの人の無念の上に成り立ったものなんだから、嬉しく思うことなんて・・・
(絶対、間違ってる)
「ありがとう」
「え?」
ビックリして弾かれるみたいに顔を上げると
「これからのためになる法にしてくれて」
安齊さんは真っ直ぐわたしに顔を向けていた。
「っ!」
また下を向いたり顔をそらす暇もないから、ついさっき、あんなにもわたしを肯定してくれてたのに、まだそんなことを言ってくれる安齊さんを見詰めるような感じになってしまった。
「・・・がう」
どのくらいの間見詰めてたのか分からないし、きっとバカみたいにポカンとした表情のままだろうけど
「・・・違うよ」
わたしには安齊さんに言わなくちゃいけないことがある。
「違う?」
「うん」
わたしは褒めてもらえることをしたわけじゃないし、お礼を言ってもらえるはずだってない。
「ゴメン、イヤだった?」
「ん?」
また意外な言葉。
「私がお礼言いたかっただけなの。でも、イヤなこと言っちゃったみたいだね」
「あ、いや、そんなこと」
「そう?イヤじゃないんなら、お礼くらい言わせてよ」
「うん・・・」
わたしはズルくて怖がりで、いい人間をまだ演じていたくて、安齊さんの言葉につけ込み、良く言われっぱなしで口をつぐむことにした。
長谷田くんがどうしてどこでどうなったか、誰よりも知ってたこと。
安齊さんにとって大事な2人は今、スゴく危険な方へ追い立てられてること。
そういうことの他にもいっぱい、許されない、言わなくちゃいけない、いろんな隠し事があるのに・・・