8月18日-(1)-
過ちを想い悔いても
未来だけは見えない
昨日の夜、独りで暗い廊下を歩いて服の部屋に行き、手探りで適当な服を集めると、それを抱えてシャワー室まで行った。
シャワー室まで行く間も、シャワー室の中も、シャワーを浴びてる間も、終わってこの部屋に来る途中も、誰とも会わなかった。
もうみんな部屋に戻ってると思ってたのに、部屋にあった人影は入口近くに二つだったから、たぶん矢口さんと猪戸さんだったはずで、そうすると愛麗沙と珠美佳はいなかったんだろうけど、昨日のわたしは身体も心もボロキレみたいになってたから、なんにもやる気が起きなくて、二つの人影に話しかけたりもしないまま部屋の奥で横になった。
そして、朝まで記憶がない。
少し前までのわたしだったら、あんなことしてしまったその日に眠れるような人間ではなかったはずだ。
だから、こんなホントに何も覚えてないってことは、横になったらまるで気絶でもしたみたいに意識をなくしてしまったからかもしれないし、別に眠ってなんかいないのに都合良く記憶を消してしまってるからかもしれない。
「・・・・・」
目を開けると、イスの向こう側には私に顔を向けてる愛麗沙がいたので
(じゃあ、たぶんこっちは・・・)
寝返りをうった反対側には、やっぱり珠美佳、もっと遠くに猪戸さんと矢口さんがいる。
4人ともまだ寝てるようで、スゴく静かだ。
これが日常の光景だったと錯覚しそうだし、最近こんな感じで目を覚ますのに急な慣れがあるみたいなのが怖いけど、もちろんコレやアレとあの人達がわたしの家族なんかじゃないんだから、やっぱりこの感じは単なる気の迷い。
(・・・・・)
悪い夢でも見てたってことになるならいいのにと考えながらも、チクッと痛みが走ったことで現実を思い知らされる。
わたしは長谷田くんを陥れたんだし、それも、ただダマしたとかそんなんじゃない。
端末を取り出して画面に触ると、当たり前のようにメールは届いてたし
(これは・・・)
わたしの罪そのものをわざわざ見えるようにしたメールなんだし見たくないけど、メールを開かないと違うタスクを実行できない機械だから仕方がない。
メールマークを触って開くと、メールの中には、裁きに因る死亡者として長谷田くんの名前が書いてあった。
(・・・・・)
仰向けになり、天井に向けて開いた両手を持ち上げる。
あの人を守るやり方は他にもあったはずだけど、こっち側に来た時点でわたしには罪を犯す以外のやり方が残されてなかったし、一番大事なものは片手に一つしか持てないと知ったわたしは、あの人の命を右手、自分の命を左手でつかみ、他の命は捨てた。
昨日のわたしにとってそれだけが、正しい選択だった。