8月17日-(6)-
(・・・・・)
愛麗沙が部屋を出て行ってからも振り返らないで、ずっと空になったイスを眺めながら考えてた。
(どっち・・・)
今までのやり方を見てれば、愛麗沙がわたしに何をさせようとしてるのか判ってしまう。
いちいち言われるまでもなく、どうしてわたしが今までずっと何もさせられないで放っておかれたのか十分すぎるくらい気付いてるし、だからこそ、わたしが選ばない方を教えろと言うのだって、分かってる。
(それに、珠美佳じゃないんだ・・・)
誰からも卑屈に見えるくらい自分にベッタリな珠美佳にはハナも引っかけない態度をありありと見せてるっていうのに、わたしが誰を選んだか教える相手を矢口さんか猪戸さんにするところが実に愛麗沙っぽくて
(最っ低・・・)
ホント吐き気さえするクズだと感じた。
でも、愛麗沙を責めるつもりにはならないし、珠美佳がかわいそうだなんて針の先も思わないわけで、ここを愛麗沙に逆らってもわたしが何か得するわけじゃないから、昨日決心したとおり、すべきことをするのに回り道してる暇なんてないんだ、今見えてる最短コースを突っ走らないと、って思う。
大体にして、選ぶもなにも、わたしにとって悩む必要すらない。
結論は先月よりもっとずっと前からもう出てるんだから、答えといっても結論を告げれば済むことだ。
「ねえ」
声を掛けられたのが珠美佳だけだったんだから、猪戸さんも矢口さんもまだ後ろにいるだろうと思って
「わたし、決めたよ」
振り返りながら言う。
やっぱり二人ともいた。
「あなた達のどっちかにって言われたけど、別に二人のどっちにも言ったっていいよね」
「・・・」
「・・・」
矢口さんは、ほんの少し首をコクッとしてくれたけど、猪戸さんは、表情も頭も動かない。
「わたしは・・・」
二人ともに聞こえるように言うのは少し恥ずかしいけど、選ばない方の名前を口に出す。
「そう」
「・・・」
二人が同時にうなずくのを見て、ドアの方に顔を向け
「こんなとこにいつまでいてもしょうがないから出ようよ」
と言って歩き出す。
愛麗沙の思ってることのうち間違いなのは、わたしが今誰を選ぶか決めるということで、当たってるのは、どっちを選ぼうがわたしは後悔するってことだ。
心の中にしまっておけば何にも影響しなかったはずのわたしの想いは、言葉に変換したことで、わたし達の明日を大きく変えてしまった。
三人一緒に部屋を出たところで、ゆっくりと後ろを振り返って今通ったドアを見ると、ドアノブの上にマジックで愛麗沙の答えが書いてあった。
(ホント、ウケるよね)
一番の問題は愛麗沙がどうして答えを間違ったかじゃなくて
(まだわたしは、あの手の中にいるってことか・・・)