8月17日-(2)-
朝集会が終わってからもボーッと過ごさなければいけないので改めて気付いたけど、もう感覚がおかしくなってしまってるから、わたしは大体の席が空いてて誰も座ってないことが気にならなくなっていたようで、それを少しだけショックに感じた。
それで、集会が終わった後は、集会室の戸口近くの壁に寄りかかって、廊下の少し離れたところで話し始めた安齊さんと榮川さん方へ耳をすますことにした。
「・・・ってことは、一度でも麻薬?希望?に頼った人は、もう滅ぼされるしかないの?」
(あ・・・)
それは、おとといにわたしがポソッとつぶやいたことだったけど、安齊さんはちゃんと覚えてて、答えが分かりそうな人に訊いてくれたのだ。
「依存原因か生成元が消滅しない限り、そう」
「ん?」
安齊さんがちょっと首をかしげながらチラッとこっちに振り返ったのは、わたしがいるのに気付いてたからだろう。
わたしのために訊いてくれただろう安齊さんにはピンと来なかったみたいだけど、そのことばかり考えてるわたしは榮川さんが何を言いたいのか分かった。
どうして希望に浸ってしまうんだろう?
あまりにも大きな絶望を感じたら、何をしても考えても無駄だと思い込んでしまうし、そうなるともう、あり得ない妄想を産み出してはドロドロした沼に注ぎ込んで、挙げ句その沼に飛び込むしかなくなるからだ。
どんなふうに希望は生まれるんだろう?
最初に榮川さんが、麻薬に頼らないで、と言ったときからずっと、希望がどこで生まれるかよりも、希望がどうして生まれるかを考えてきたけど、もちろん答えは出ない。
でも、ヒントは見付けた。
きらびやかな容れ物に入った冷たくて美味しい毒。
容れ物の中身を知ってるのに、見とれ、なで回し、拝んでさえもいるうち、もれ出した毒蒸気に侵され、何かもただれてしまった人達。
どうしてそんなことになったのか理解できたとき、わたしもとっくに毒蒸気に侵されていたわけで、まだただれてはいないけど、麻薬におぼれてるだけの方が当然マシだった。
(大丈夫、分かったよ)
心の中でそんなことを思ったような顔つきを作ると、安齊さんに向かって目だけでうなずいた。
「そのイゾンゲンイン?とかセイセイモト?とかは、どうすれば消滅するの?」
でも、自分がまだ分からないからだろう、安齊さんがさらに訊くと
「・・・・・」
明らかに真っ直ぐ進んできた視線が、わたしの目に突き刺さった。
「・・・自ら源になる」
「え?」
短く声を上げた安齊さんと違い
「・・・」
わたしにとってその答えは意外じゃなかった。
「私が?」
榮川さんは無言で小さくうなずくと
「だが美結さんは、そのままがいい」
もう一回わたしを見てから歩き始めた。