8月16日-(10)-
「美紗」
(愛麗沙が言うように)
「みーさ」
(誰かを犠牲にしないと生き残れないなんて、そっちが間違い・・・)
「みーさー!」
耳元で珠美佳に呼ばれ
「!」
ハッとして頭を上げる。
「なに無視してんの?」
「あ、ゴメン、違うよ」
「そ」
「うん・・・」
あいまいに頷くと
(だから、わたしも間違ってる)
すぐにまた沼に沈んでいくみたいな気分になる。
(愛麗沙の脅しに負けて、目先の安全を選んでしまった・・・)
「美紗!」
また耳元の大声。
「・・・」
仕方なく顔を向けると
「分かってるだろーけど」
珠美佳は小声になって
「変な気起こしたって意味ないからね」
わたしから顔を離して、意地悪そうな視線を向けてきたのに
「ふふ」
わたし達を見てる愛麗沙は、ある意味こっちに優しげな視線を向けながら、でも、珠美佳の言葉で満足したように口の端を上げた。
「・・・」
ここで愛麗沙は強い立場にある。
(それに・・・)
珠美佳にでさえ、いや、珠美佳だからこそ果たせてる役割がある。
珠美佳がどんな立ち位置を目指してるのかなんてすぐ察しが付いたけど、それが珠美佳だけ持ってる取り柄だって気付いてしまったから、かえって自分の使えなさとか居場所のなさが心を締めつけて、胸が潰されそうになった。
「あっちと、こっち・・・」
こっちに来たのも、こっちでやってることも間違い。
「あっちに行けたかもしれないのに・・・」
口からもれてしまったのに気付き、あとは頭の中でつぶやく。
(長谷田くんのように、安齊さん達に受け入れてもらえる資格があるの?)
そうすると不意に恐ろしい考えも浮かんでくる。
(もし、受け入れてもらうとしたら、わたしは・・・)
頭を、右、左に強く振って浮かんだ考えを飛び散らせる。
だって、そんなの無理な話だし、そんなやり方なら愛麗沙と何も違わなくなってしまう。
今から何をどうやっても、まるっきり手遅れだし、わたしが救われることは絶対に、ない。
胸元を両手で掴むと、そのまま机に突っ伏す。
そう。
わたしは、まだ終わってないだけ。
終わってなくたって、壊れた橋へと暴走する列車みたいに、どうなるかは決まってる。
目の前に崖が見えてるのに、もう誰にも停めたり曲げたりできない列車に乗ってるだけのわたしは、今さら飛び降りるわけにもいかないし、一緒に落ちていくしかない。
自分で列車に乗りたいと思ったんでも自分で橋を壊したんでもないけど、自分で乗るのを選んだんだから、落ちなきゃならないのは、別な誰かじゃない、わたしのせい。
声を出さないよう気を付けて、頭の中でつぶやく。
(わたしはダメでも、あの人達なら?)
裁きに因る死亡者
なし
裁きに因らない死亡者
なし
国家の人口
14人