8月16日-(9)-
「長谷田くん」
安齊は俺の横に来る。
「あのね、うまく言えないんだけど、私はね、そういう気にならないよ」
「え?」
顔を上げて安齊を見ると、ゆっくりともう一回繰り返してくれた。
「私は、そういう気に、ならないよ」
それから英基の方を見て
「ヒデくんは、どう?」
俺が直接確かめづらいことを訊いた。
「・・・・・」
ずっとそっぽを向いていた英基は腕組みをして
「何が正しいか、俺だって分からない」
つまらなそうに言うと、俺の方を見た。
「だからまあ、あの時の雄生が間違ってたっては、さすがに俺も言えないからな」
「・・・英基」
「ん?」
「英基は、俺にムカついてないのか?」
「なに言ってんだ、雄生」
何回か首を左右に振る。
「俺は美結じゃない。だから、気にしないなんてわけないし、ムカつくのだって当たり前だろ?」
「そうか」
「ただ、これからも雄生の協力が必要だから、俺の気持ちは大した問題じゃなくて、どう雄生と協力していくかを考えたい」
「そうか」
英基の気持ちは分かったが
「健蔵は?」
つい探るような言い方を続けてしまう。
「馬鹿か」
俺の肩をバシッと叩いて
「美結だってならないんだ、そんな気になってるわけないだろ」
と言ったところに、安齊も続いた。
「そうだよ、健ちゃんなら大丈夫だよ」
「あぁ、まぁ、そうか」
安齊の言葉に俺は頷いて、健蔵に正面を向けた。
「健蔵」
「俺か?」
キョトンとした顔で俺を見る健蔵に、俺はいきなり抱き付いた。
「これからもよろしくな」
「お、おう」
「サンキュー」
だいぶ心が晴れた。
俺は間違った判断をして、中岡を死なせる原因を作った。
でも、俺はまだ独りになってなかった。
だから、もう間違わない。
「は」
長谷田くん達の方を見てた愛麗沙が唇をゆがめて笑うのが判った。
わたしが判るくらいだから、当然珠美佳も愛麗沙が笑ったのに気付いて
「馬鹿じゃないの、あいつら」
噴き出しそうな口調で言ってから
「どっちも調子良すぎでしょ」
愛麗沙とは違った感じ、鼻で笑うみたいにする。
「・・・」
(違う)
多分でしかないけど、長谷田くんは間違ってない。
昨日の中岡くんのときも綿谷くんのときも、わたしは目の前で見てたわけじゃないから、どんな手を実際には使ったのか知らない。
でも、愛麗沙と珠美佳が別な誰かを追い落とすことを目指してる生き方してるのは、わたし達みんなには察しが付いてることだし、実際に何も違わない。
でも一方で、安齊さん、鹿生くん、仁藤くんの3人は元々他人を傷付ける人達じゃなかったし、今だって何か変えたわけじゃないのに、ちゃんとまだ生きてる。
長谷田くんだって、他人を傷付けるのが目的でやってたことなんて、きっと一つもなかったんだ。
間違ってるわけない。