8月16日-(6)-
昨日、綿谷くんが保健室に入ったとき、わたしは愛麗沙から、部屋の外にいて誰も来ないかどうか見てるように言われた。
そして、愛麗沙が部屋を飛び出してきて綿谷くんを告発するまで、誰も来てないことにしてるんだけど、見張りをしてた間に本当は三人、姿を見た。
一番最近愛麗沙が引き込んだ二人。
この二人は少し遠いところを通り過ぎて行ったけど、部屋の前にいたわたしには気付かなかったんじゃないかな。
でも、もう一人、わたしに気付くと、ずっと視線を外すこともなく部屋の前まで無言で近寄ってきて、何もなかったかのように、また引き返していった人がいる。
(そうだよ)
あの時は、一体何をしたかったのか全然分からなかったけど、今もう一度思い返してみると、あの人は保健室の中で何が起きてるのか見当を付けることくらいできてただろうから、わたしが愛麗沙に忠実なのかを確かめようとして、あんな不思議なことをしたのかもしれない。
わたしが愛麗沙に忠実だったら、あの時すぐ何か行動を起こしたに違いないし、すぐ何かしなくても、後でわたしが愛麗沙に報告したりすれば、平静を装うなんてことのできない愛麗沙は、あの時あの人が来てたと知って必ず何か反応を見せたはずだ。
でも、わたしは愛麗沙に従うつもりがこれっぽちもなかった。
いつまで生きるのかを自分だけで決めれないとしたって、どうして生きるのかは自分で決めなくちゃいけないんだから、もう生きてることを無駄にしたり後悔したりするわけにはいかないと思えるようになってきてた。
あの時だって、わたしもずっと視線を外さず見つめ合ったまま何の行動も起こさなかったし、愛麗沙が出てくるまで誰も通らなかったよ、と嘘をついたきり、昨日も今日も愛麗沙には何一つ本当のことを伝えてない。
あの時、自分をガン見するだけで何もしようとしなかった、わたし。
今日も昨日と大して変わらない様子の、愛麗沙。
その両方を見たあの人が、あいつは愛麗沙に忠実じゃないんだって判断できてると信じたい。
愛麗沙の取り巻きの中にも愛麗沙の手下じゃない人がいると知ったあの人が、それを活かすために何か始めてくれればいいと心の底から思う。
(・・・・・)
表情に出さないのか出せないか、わたしには判らないし正直どっちでもいいけど、とにかく、あの人が何かにつけて安齊さんを気に掛けてる気持ちは本物だ。
いつだったか、あの人は毎日何かしらアドバイスを伝えることで安齊さんを助けてきたんだってことに気付けたから、わたしは安齊さんがあの人からもらったアドバイスのおこぼれを必死に拾い集めるようになった。
そのおかげで、何とか今も生きてる。