8月16日-(5)-
「戻った方がいい」
「え?」
栞那ちゃんが視線でドアを突き通すみたいにしたので、さすがにすぐ分かった。
「うん、でもパッパッと顔だけ洗うね」
「・・・」
私は持ってたタオルを首にかけると手に蛇口から水を受けて何回か顔を洗って、タオルでふきながら
「栞那ちゃんは、これから朝ご飯?」
聞いてみる。
「すぐではない」
「そっか。そのうち・・・かな」
「・・・」
栞那ちゃんがクルッと向きを変えて、一番奥の個室に戻っていったので
「しばらく食堂にいるようにするからね」
独り言みたいにつぶやき、ドアを開けて廊下に出た。
「ヒデくん、お待たせ」
「ああ」
顔を洗うにしては少し長かった気もしたけど、ヒデくんは気にならなかったようで
「行くぞ」
私じゃなくて隣の健ちゃんに言うと、食堂の方に歩き出す。
「うん」
私がヒデくんの2歩くらい後ろを歩き始めると、健ちゃんは私のすぐ左斜め後ろくらいを、長谷田くんは私の真後ろくらいを、それぞれついてきてくれてる。
いつもは朝ご飯に行くときいない長谷田くんが、今日はいる。
そのせいじゃないんだけど、何かいつもより話しづらい気がしてしまって、おしゃべりだけが役目の私なのに、話し出す切っ掛けとか話題が見つけれない。
そうすると、気持ちが自分の中に向かってしまう。
(それにしても)
栞那ちゃんは、いつからあの個室に入ってて、あそこで何してたのかな?
さっき声をかけたとき、こんな時間にこんな場所にいるのは栞那ちゃんくらいだろうと感じてたから、栞那ちゃんが出てきやすいように自分が誰なのか言いながらノックしてみた。
それはそれで良かったみたいだけど、もしかして栞那ちゃんがしてたことをジャマしてしまったんだろうか。
私と話した後も個室に戻って行くくらいだから、用を足してたとかじゃなくて、中でしてたこともまだ途中だったんだろうし、すぐ食堂に来れないっていうのも、何かが終わるまでもう少し時間がかかるからで、よけいに時間がかかるようになったのは、私と話したせいかもしれない。
(・・・・・)
今日も栞那ちゃんについて、分からないこと知りたいこと気になることだらけになってしまった。
でも、個室の中で何かしてたんだとしても、栞那ちゃんは私に声をかけられて仕方なく途中で何かをやめるような人じゃないし、さっき出てきてくれたのは、栞那ちゃんが自分のしてたことを中断してもいいと考えたからに違いない。
結局私は、栞那ちゃんを分からないままでいいし、知らないままでいいし、自分が何かしてしまったんじゃないかって気にしなくていい。
それが栞那ちゃんに対する私の正しい接し方だと思うから・・・