8月16日-(4)-
「ここで待ってるからな」
「うん、ありがとう」
ヒデくんに手を振ってトイレに入る。
(・・・・・)
もう習慣になってしまってるから、一番奥まで行ってみる。
一番奥の個室のドアが閉まってる。
「私、安齊だよ。誰が入ってるの?」
そう声を掛けながら、コンコン、コンコンとノックしてみる。
「・・・」
すぐドアが開いて、たぶん中にいるんだろうと私が思ってた人が出てきた。
そして、私の前を取り過ぎると鏡の前まで行ってやっと立ち止まる。
「おはよう」
私の方は見ないで言われたけど
「うん、おはよう」
二人きりなんだから、私に言ったんだろうと見当をつけてあいさつし返すと、栞那ちゃんは軽く左手の甲を口に当てて
「大丈夫では、ない?」
いきなり切り込んできた。
ビックリしたけど
「え?うん、まあ、そうかも・・・」
右と左に頭を振る。
「そう」
「大丈夫じゃないのは、やっぱり中岡くんのことかも・・・」
「知っている」
「うん・・・そうだよね」
「図書室の向かい」
「え?」
顔を上げたら、鏡の中で栞那ちゃんと目が合った。
(知ってるって)
別に私は中岡くんがどこにいるのか聞くつもりがあったわけじゃないけど、野村くんのときとかと同じく、私が中岡くんのいる所を知りたがってるんだと思ってくれたんだろう。
「・・・そっか。ありがとう」
「・・・」
栞那ちゃんみたいに、こんなふうに、いつも冷静でいれるんだったら、もう少し私は誰かの役に立てるんだろうか。
「建物の中なんだったら、すぐ行ける・・・かな」
「・・・」
無言で頷いた後の栞那ちゃんから野村くんのときのように、中岡くんの様子について説明するみたいな言葉が出てこないってことは、中岡くんの様子が私に見せれないほどじゃないからかもしれない。
「あの、栞那ちゃん。中岡くんのところって、私が行っても大丈夫なのかな?」
「・・・・・」
栞那ちゃんは左手を握って口に当てようとしたけど、胸の前くらいのところでやめてしまった。
「・・・中岡くんには、美結さんが」
「うん」
「綿谷には、別な人がいいと思う」
「分かった」
鏡の中の栞那ちゃんに向けるみたいにして大きくうなずく。
「・・・」
栞那ちゃんが言うんだから間違いなく、中岡くんのところは私が行っても耐えれる感じだけど、綿谷くんのところは辛い感じなんだろう。
「っと、綿谷くんは?」
「図書室の隣」
「えっ?あそこ?」
「・・・」
図書室の隣は、保健室みたいな部屋だったはずだけど、天井から仕切りのカーテンがかかってるのにベッドはなかったり、薬品とか入れるための棚だけあって中に何も入ってなかったり、そういう部屋だから、私は一度見に入っただけだった。