8月15日-(10)-
「あかり、そろそろいいんじゃない?」
「あ、うん」
森に言われて、あかりがドアノブを引く。
あかり、森、あたしの順で中に入ると、当たり前だけど綿谷と三田が仕事中だった。
「何だ、お前ら!」
その場から飛びのくみたいにした綿谷に森は
「あーあー、ダメじゃーん、そんなことしちゃぁ」
バカにしたような口調を投げ付けた。
「今日の国王は、珠美佳だよ」
「は?」
「国王にそーゆーことしちゃ、ダメじゃん」
わざとらしく左右に頭を振ってから、ハーッと音を立てて息を吐く森。
「暴力とかケガさせるのとも、また違うんだよ?」
「なに?」
「珠美佳」
森の声が合図みたいになって、三田が綿谷のところから、素早くあたし達の方に場所を移した。
「綿谷はさぁ、もしかして昨日のことで、なんかあたしの特別にでもなったとか思ってない?」
「なんだって?」
「んー・・・それってね、たぶんあんたの勘違いじゃん」
「なに?」
「昨日、梨加子をどーにかしてくれりゃあ良かったわけ」
「ちょっ・・・」
綿谷は言葉が続けれなくなっちゃったみたいだ。
(まあ・・・ね)
綿谷が森を信じてたかどうか、信じてたにしてもどのくらい信じてたのかなんて知らないけど、自分が誰かにダマされたって気づきたくないのは、あたしだって一緒だ。
「ちゃんと前払いもしてあげたし、あんたも約束どおり梨加子を黙らせてくれたんだもの」
森は手に持ってた端末を顔の前まで持ち上げて
「あたしらに貸し借りはゼロ」
と言ってから、端末にかかってたスリープを解除したみたいで、森の顔が小さな明かりにポワーッと浮かんで見えた。
「ってことで、あんたは用済み」
「な!」
「綿谷爽輔は、国王を不可侵じゃなくしました」
「やめろ!」
綿谷がこっちに向かって突っ込んできたので、森はドアを押し開けて廊下にサッと出た。
そのすぐ後、綿谷がドアにぶつかるんじゃないかって勢いのままあたしの前を通り過ぎたころ
「綿谷を告発しまーす」
森の声が廊下から聞こえた。
「森ー!」
こういうのを絶叫っていうんだろう。
綿谷が変な声を上げながら床に倒れてからも、いろんなものがあたし達に飛んできたけど、暗いから何なのか全然見えなかったし、あたしと三田とあかりが壁伝いでドアまで行く途中は、手も足も時々ヌルッとして、とにかくキショかった。
綿谷が暴れてるうち何回蹴っても開かなかったのに、今あかりが押しただけでドアは簡単に開いて、廊下の壁に森が寄り掛かって立ってるのが分かる。
「汚れちゃったみたいだし、シャワー行きなよ」
やっと見える森の唇の両はじ、スゴく上がってるみたいだし、機嫌は良さそうだ。
裁きによる死亡者
中岡大翔
綿谷爽輔
裁きに因らない死亡者
なし
国家の人口
14人