8月2日-(3)-
ヒデくんと二人で部屋に戻った。
「英基、美結は?」
健ちゃんが中にいて、ヒデくんに訊いてきた。
「ああ」
健ちゃんの問い掛けに、ヒデくんは身をかわし、私が見えるようにする。
「ちゃんといたのか」
健ちゃんは短く溜め息をついて
「美結、黙って独りでどっか行くのはやめろよ」
さっきのヒデくんよりは静かな感じで言う。
ここまで来る間に、健ちゃんの言うだろうことは予想できてた。
「うん、ヒデくんにも言われた」
「そうか、じゃあ分かってるな」
「うん。ゴメン、心配かけたね」
できるだけ真面目な顔をして謝る。
「それでね」
健ちゃんもヒデくんも私を心配してくれてたのが単に嬉しかったので、謝った後の言葉はできるだけ明るく言うことにした。
「健ちゃん、ヒデくん、朝ご飯食べに行こう?」
「なに?」
ヒデくんが訊き返す。
「朝ご飯を食べに行こうよ」
「あ、ああ・・・」
健ちゃんと顔を見合わせるヒデくん。
「先のことはいろいろ考えなきゃって、私も思うよ。思うんだけど、今日は今日で頑張れないとマズイし」
「ん、まあ、それはそうだけど」
戸惑ってるような表情のヒデくん。
私は、お腹に手を当てた。
「私、結構寝れたし、お腹も空いたから、大丈夫だよ」
なんて言っちゃったけど、もちろん、嘘。
昨日一日のこととか、これからのこととかが気にならないはずない。
だから、当たり前だけど、私だって食欲なんかない。
「ご飯くらい、食べようよ」
でも、さっき榮川さんに言われたとおりだとは思うんだ。
「んー・・・」
健ちゃんが、立ったままの私とヒデくんをチラチラ見てから
「そうだな」
両膝に手を置きながら立ち上がる。
「英基、じゃあ、行くか」
「・・・ああ」
健ちゃんとヒデくんは同意してくれたけど、まだ部屋の中には4人いるので、私は他のみんなにも呼び掛ける。
「みんなも行こう?」
健ちゃんやヒデくんみたく他の人のことまで考える余裕があるってスゴいことだ。
私には、そんな余裕はない。
だから、たとえみんなから単純で無神経なバカだと思われたって、精一杯明るく振る舞うことで少しでも誰かの気が紛れるならそれでいいと思う。
でも、しばらく誰も動いてくれなかったので、美愛が立ち上がって
「・・・そうだね、暗くなってても仕方ないから、まずは食堂行こうか」
私の方へ来てくれた。
「ほら、美結の言うとおり、みんなも行こうよ」
と誘ったら、やっと他のみんなも立ってくれた。
「よし、行こう」
私は、無理して声を張って、わざとらしいくらい勢い良く右腕を突き上げた。
(きっと、これでいいんだ・・・)