8月15日-(6)-
(二つ・・・)
当然私なんかが思い当たるはずない。
ヒデくんが言ってたのだって、今までにも聞いたことがある、告発されなければ法律は破ってもいい、ということだった。
もちろん、もう一つあるのを私には隠してるような感じでもなかった。
というより、私には栞那ちゃんの言ってることの違いが分からない。
裁かれずに殺すのと、殺しても裁かれないのとは、同じじゃないの?
「殺したのが綿谷なら前者」
私が何を考えてるのか分かってるように、でも、いつもの口調で言う。
「殺害と考える理由でもある」
「?」
もちろん訳が分からないから、すがるような気持ちで栞那ちゃんを見たけど
「殺された理由は、分からない」
栞那ちゃんは自分が言うべきと思っただろうことを続けるのを選んだ。
「前者っていうのは、裁かれずにってことだよね?」
「・・・」
返事はないけど、栞那ちゃんのあごがちょっと動いたから、合ってるって分かる。
「栞那ちゃんが言ってるのは、一ノ木さんを手にかけたのは綿谷くんだったときに成り立つ話なの?」
「綿谷は全ての条件を備え、他の者には不合理がある」
栞那ちゃんは、首を振ることもなく答えて
「確信もあるけれど、断定は無理」
私と目を合わせた。
「いいよ、分かった」
一応言ったけど、分かってなんかない。
(ん?)
そのとき、気づいた。
「っと、栞那ちゃん」
気づいてしまうと、聞かずにいれない。
「なに?」
「昨日、一ノ木さんは殺された」
「・・・」
「一ノ木さんを殺したのが綿谷くん」
「・・・」
「昨日国王は綿谷くん」
「・・・」
「これ、みんな関係ある?」
「・・・・・」
しばらく私と合わせてくれてた青い瞳をスーッと横にずらすと、栞那ちゃんは、ゆっくりと歩き始める。
「どこ行くの?」
「美結さんも分かったようだし、もう部屋に帰ろう」
(やっぱり、そうなの・・・)
鈍い私が初めて思い当たったことだったから、自信もないまま栞那ちゃんに聞いたんだけど、ホント珍しく当たってしまったみたいだ。
「うん、そうだね」
急いで栞那ちゃんの横に走っていって並ぶ。
栞那ちゃんの後ろを独りで歩くのは怖いから。
「国王は特別」
「え?」
「法により不可侵」
「え?」
「・・・」
それっきり栞那ちゃんは何も言ってくれなかった。
(国王は特別でフカシン・・・)
わざわざ毎日選ぶくらいだから、そりゃ特別だろうけど、栞那ちゃんが言う意味は、それと違うだろう。
フカシンというのは、傷つけちゃダメってくらいの意味だったはずで、国王は特別だから傷つけられないってことを言いたいんだ。
しかも、法律で国王はフカシンなんだって決まってるんだったら、国王を傷つけたら法律を破ったことになる。
(つまり、裁かれる・・・)