8月15日-(4)-
半日ずっと探して見つからないから、一ノ木さんが建物の中にいないのは間違いなさそうで、健ちゃんだけは、昨日の野村くんみたいに外にいるかもしれないし探しに行こうとか言ってたけど、ここ2,3日一ノ木さんが変だったのに気づいてない人はいなかったし、ヒデくんと長谷田くんは、一ノ木さんはガケから飛び降りて自殺したって考えてるみたいだった。
確かにそれなら一ノ木さんが見つからないかもしれないってことで健ちゃんも納得したので、もう探さないことになった。
でも、栞那ちゃんが言ってたみたいに、一ノ木さんが殺されたじゃないかって思ってる人はいないようだったし、何でそう思うんだって言われたら困ってしまうから、みんなの結論が出るまでは私も黙ってた。
「ガケから飛び降りたら、見つからないよね・・・突き落とされても・・・」
頑張ってポツッとつぶやくように言ってみる。
「まあ、突き落とせば、殺したことも隠せるから都合いいかもな」
うまく長谷田くんが乗ってくれたので、もう少し続けてみる。
「でも、ヒデくんの法律で、人殺しは裁かれるんじゃないの?」
「合ってるところと間違ってるところがあるな」
今度はヒデくんが反応してくれて、左右に首を振る。
「え?」
「法の違反全部がそうだけど」
「うん」
「告発さえされなければ、何をしても裁かれない」
「あ」
(そうだった・・・)
告発されなければ裁かれない、ということはヒデくんが最初の日からずっと言ってることだ。
なのに、何回も聞かされてることを思い出せなかった。
心を占めることの数も大きさも日に日に増えてて、いろんなことに気を配れないし覚えていれない。
「殺したところを誰にも見られなかったかもしれないし、見てた奴が告発しなかったかもしれない」
「そっか・・・」
「今は5分経てば告発されないしな」
「そうだね」
「でも、殺すような奴なら、いきなりやるんだろ?」
話に入ってきた健ちゃんが腕組みをする。
「そうでもない」
ヒデくんは、さっきみたいに首を振る。
「なんでだ?」
「殺すなんてことを考えるくらいの奴だったら、やり損ねがないようにするはずだし、それなら襲うタイミングより確実な方法でやるはずだ」
「方法・・・って?」
つぶれそうな胸を押さえながら聞く。
「もし俺だったら」
「ヒデくんだったら?」
「何人かで手分けするとかを考えるな、やっぱり」
「じゃ、誰かを殺そうって考えたら、誰かと組むってことなの?」
「たぶんな」
(・・・・・)
暗い気持ちになるのは、一ノ木さんを殺したかもしれない何人かと毎日顔を合わせてるから。
私の周りにそんな人はいなかったし、今もスゴく近くには、いない。
それって単に、運がいいだけなの・・・