8月14日-(9)-
夜集会の時間になった。
今日の国王は綿谷くんだ。
綿谷くんが作った今日の法は、午前9時40分から午後6時50分の間、自ら集会室に5分以上入らない、って内容なので、これで朝集会から夜集会までの間集会室にいれなくなったのと同じだ。
ただ、綿谷くんなりに考えたんだなって思ったのは、自ら5分以上入ったときだけ裁かれるというところ。
荷物とかと違って、いつの間にか部屋に入るなんてことがないんだから、これはムリヤリ部屋に押し込まれたときまで裁かせないための歯止めになるかもしれないけど、まさか試してみるわけにもいかないので、ホントに役に立つかまでは分からない。
それに、集会室にいたってやれることはないから、集会と集会の間入れないからって困るようなことはない。
「じゃ、明日の国王を決めるので、やりたいって人がいたら」
今までどおり国王選挙の司会を始める。
「・・・・・」
「誰かいるか?」
「・・・・・」
「いないのか?」
わたしは前の方に座ってるので、キョロキョロ部屋の中を見回さないと分からないけど、一番前でみんなが見える綿谷くんの様子から、たぶん誰も立候補してないんだってことが分かる。
「誰もいないんだったら」
ガタッと音がしたので、そっちを見たら、珠美佳が右後ろに歩いて行くのが見えた。
「誰もいないんだぁ」
わざわざ榮川さんのところへ行ったみたいで
「じゃーあー、あたしが明日やってもいいの?」
机にひじをついて両手を組んでる榮川さんの顔をちょっと見下ろしてから
「決まり」
向きを変えて綿谷くんの方へ歩き出した。
(珠美佳か・・・)
おとといの国王に誰がなるかで、愛麗沙と榮川さんがぶつかったのを忘れてる人なんているはずないし、確か珠美佳は初めて国王になろうとしてるんだから、止める人もいないってことだろう。
「三田の他にやろうってヤツは?」
綿谷くんがもう一度部屋の中を見渡すようにした。
「・・・・・」
それでも誰も何も言わないし、立ったりするような人もいないみたいだ。
「じゃ、明日の国王は三田でいいんだな?」
念押しのように言ったところで、愛麗沙がパチパチ手をたたき始め、それにパラパラッと何人かが続いたけど、みんながみんな拍手したわけではなくって、わたしも結局手をたたく気も起きないでいるうちに
「三田がっていうのに反対するヤツはいないようなので、明日の国王は三田に決めます」
綿谷くんが締めてしまった。
(綿谷くんの言うとおりだけど・・・)
珠美佳の立候補にはっきり反対する人はいなかったけど、あの拍手の数は、賛成する人が少ないんだってことを知らせてしまったし、そんなみんなを珠美佳本人は一体どう思ったことだろう。