8月14日-(7)-
「梨加子って、もうダメっぽいね」
「!」
急に後ろから言われて驚いたが、声で三田だっては分かる。
「そうかもな」
昨日くらいから、オレも一ノ木が前と違ってきたと感じてる。
「だからさ・・・」
三田はオレにしか聞こえない小さい声でささやく。
しかも話が中身がスゲえ。
「マジで言ってんのか?」
「うん」
「だからって」
「やんの?やんないの?」
「あ、ああ」
(ん?)
三田が言ったことはオレしかできないから、結構なチャンスだ。
オレの代わりに別なヤツがやるわけにいかないんだから、ボーナスがあって当たり前だろ?
「やるよ」
「そ」
「でも、いつもと同じってのは変だよな?」
「は?」
「オレがやるしか、ないんだろ?」
「何言ってんの?」
「今日オレがやる気出なかったらどうするんだ?」
「は?」
「珠美佳ぁ、ちょっと」
オレが見てるのに気付いたらしく、森が三田を手招きした。
森が三田の首を抱え込むみたいにして何か話し始めると、矢口がオレをジーッと見てきた。
こいつはこいつで気付いたことがあるみたいだ。
こいつは確かに立場が弱いし、どんなときも口数が少ないのは、ほとんどのことをガマンしてるからだろう。
それに、自分のせいで死んだヤツがいるってのは、心のどこかでいろんな重荷になってるのかもしれない。
ま、そいつのせいで死んだヤツがいるのは矢口だけじゃないが・・・
三田が戻ってきた。
「でも、やることやってからだからね」
「やってから、ね」
オレは頭の後ろで手を組んで、斜め上を見た。
「普通、ヤバイこと頼むのに口約束ってないよな?」
「は?」
「察し悪いな、お前」
三田の肩越しに、その後ろに視線をぶつける。
「何言ってんの?」
「ヤベぇことなら前払いで頼むもんじゃねぇ?」
「前払い?」
三田じゃラチがあかない。
「なあ、そうだろ?」
「って、え?」
オレが最初から自分とは話してないのにやっと気付いたみたいで、三田が半身を後ろに向ける。
「なるほどねぇ。前払いでいいよ」
森が自分の方を向いた三田の右肩を引き寄せた。
「あ?え?」
「やる気、一番大事だよ?」
「あ、そう・・・だね」
「分かるよね、珠美佳?」
「あ、でも」
「珠美佳ぁ」
森は三田の両肩に手を置いて
「あたしがいいって言ってるよねぇ?」
顔を近付ける。
「っ!」
視線だけ外そうとする三田。
「ねえ、夜集会終わったら直行でいい?」
森は三田に顔を向けたままだったが
「ああ、それでいい」
一応うなずいた。
「オッケー」
クルッとオレに背中を向けて森が部屋を出て行くと
「あ、ちょっ、愛麗沙」
慌てて三田も続けて出ていく。
「・・・・・」
ずっと何もかもジトーッと見続けてた矢口だったが
「・・・」
部屋を出る直前までオレから目をそらさなかった。