8月14日-(3)-
野村が裁かれてしまってるのは、メールが来てるくらいだし間違いない。
救えるなら焦ったりする必要もあるかもしれないが、もう裁かれてしまってる人を探すのは、できる限りの方法で送ってやる方がいいと思うからだ。
(ホントか?)
そういう人の良さを持ってる奴もいた。
それは間違いない。
でも、そういう人がいい奴は、もう裁かれてしまった。
人の悪さにかけて俺は他人に劣ってるつもりがない。
俺が野村を探すのは、今までもそうだったとおり、夏だっていうのにその辺に放っておけば腐ってしまうからで、送ってやろうと思うのは死体の近くで過ごすわけにいかないからだ。
(まあ、まだいるが・・・)
人のいい奴が全員いなくなったわけじゃないのは救いでもある。
ただ、いるといっても、もう二人きりで、健蔵と英基が守ってくれる方はともかく、もう一方は・・・
「雄生」
「・・・・・」
「おい、雄生」
大翔に肩を叩かれてハッとした。
「あ、ああ、どうした?」
「なんかボーッとしてたか?」
「あ、ああ、そうかもな」
「今日は暑くなってきたから」
前田が俺にペットボトルを渡してくれた。
野村を探しに行く前、食堂に寄って前田がペットボトルに冷たい飲み物を入れていたのは知ってた。
ペットボトルは、最初の日の電車に乗る前に何人かが買ったりしたらしく、それがそのままここに持ち込まれてて、誰が持って歩いてもいいように食堂に置いてあるから、みんなの持ち物ってことになってる。
「ありがとう」
「うん」
何でも共有すれば、何人も裁かれることはなかった。
そんなことすぐに思い当たるが、実際何でもかんでも共有することは不可能だ。
結局、確実に自分の物以外を持っていてはいけないなんて、誰にとっても不自由で危険な法があるからいけない。
(でも・・・)
千賀は法を作った理由は一から十まで善意で、悪気なんて一かけらもなかったはずで、結局、どんな便利な道具も使い方次第で凶器になるし、宝石だって投げ付ければケガを負わせることくらいできるってことだ。
いつだったか寝る前にそんなことを考えた。
前田に渡されたペットボトルのお茶を飲む。
ぬるいが、前田が入れたときの冷たさが名残みたいに残ってる。
「ヒデくん」
「なんだ?」
「ちょっと顔洗ってきていい?」
安齊に訊かれた英基が俺をチラ見する。
歩いてて丁度トイレの前に差しかかったからだろうが、安齊の言ってることも分かる。
「顔くらい洗わせてやれよ」
「ああ」
「英基と健蔵が待ってろよ。俺と大翔と前田は先行ってるから追いついてくれ」
「分かった」
「長谷田くん、ありがとう」
「いや、別に」
トイレの前を通り過ぎる。
安齊達は止まるのを見てから、お茶をもう一口飲んだ。