8月14日-(2)-
「あはははは」
(・・・・・)
なんかスゴく明るい感じの声でまた目が覚めた。
うっすらと目を開けると、当然といえば当然だけど、窓際に立って外を見ながら笑ってる一ノ木さんの声だった。
(・・・・・)
単なる気味悪さってことなら、昨日何回か見た薄笑いの方がずっとヒドいんだと思うけど、あたしが知ってた一ノ木さんは、気が弱いからかいつもオドオドしたような表情を浮かべてて、口数が少ないというかほとんどしゃべらなくて、隣にいてもやっと聞こえるくらい声が小さい、そんな人。
もちろん学校で見れる姿しか知らないわけだけど、それにしたってホントの内面が、明るくて、大声で楽しそうに、よくしゃべるような人だなんて、あり得ない。
だから、口を開けて、何メートルも離れてるのに聞こえるような声で笑うなんてことができるとは思えないし、あれはあたしの知ってる一ノ木さんじゃない。
(あたしの知らない一ノ木さん・・・)
そんなふうに変わってしまったのは、やっぱりあの人がおかしくなってしまったからだろう。
妹の方の鈴木さんも最後おかしくなってしまったけど、あっちは抜け殻みたいに表情も言葉もなくなった感じだったから、一ノ木さんとは丁度逆。
「・・・なんだ?」
少し離れた所でした声は、田月くんのようだ。
「誰が笑ってるんだ?」
上半身を起こして窓の方を見てる。
「んん?一ノ木?」
「なんか楽しい夢でも見たんだろ」
村井くんも目が覚めたんだろうけど、寝転んだまま言った。
「そうか?」
村井くんを見る田月くん。
(楽しい夢・・・)
こんなことになってから夢を見てるかどうかさえ覚えてないけど、見始めたからってやめれるわけでもないから夢なんて見たくないし、寝てる間に何か起きたりされたりするんじゃないかと考えると、寝ることそのものが怖い。
「まだかなり早いんだし、もう少し寝てろよ」
「ああ」
村井くんに言われた田月くんが上半身を倒すのが見えた。
(・・・)
2人が一ノ木さんの様子が変わったのに気付こうともしないのは、元々一ノ木さんに興味もなければ、知ってたわけでもないだろうから、自分達には関係ないと思ったのかもしれない。
正気だったら、一ノ木さんなんかでも十分あたしの役に立つ。
一ノ木さんといさえすれば独りになることもなくて周りに気を配ることができるし、変な物を持たされたり端末を盗まれたりってことも起きにくい。
でも、おかしい人と一緒にいたってそういう役に立たないどころか、おかしい人といるってのは明らかにむしろマイナス。
朝ご飯行くときに暴れたりしないかどうかだけ確かめてみるけど、それでたとえ暴れなくたって、もう一ノ木さんをほっとくしかなさそうだ。