8月13日-(7)-
本を選ぼうと、本棚の間を歩き回る。
さっき一ノ木さんに言ったとおり、頭の良くない私は、あまり難しい本を選んでも分からないし、まあ、寝るために読むならいいかもしれないけど、夜は真っ暗だから、それもできない。
(うーん・・・)
舟山さん達と違って、ある意味初めて来た図書室。
そういえば一度、ここって何の建物なのかヒデくんに聞いたことがあって、そのときヒデくんは、ここが最初に放送されたとおり、自然状態研究所という建物なんじゃないかって言ってた。
結局私にとっては、何なのか分からない、わけ分からない建物ってことでしかないので、図書室にある本もわけ分からないんじゃないかって決めつけてた。
でも、実際本棚を回ってると、参考書とか図鑑とか小説とか、学校にあるような本ばかりで少しホッとしたりもする。
「安齊さん、本決まったー?」
「!」
後ろから急に声をかけられてビックリしてしまう。
「ああ、うん、まだちょっと」
一ノ木さんは四、五冊手に持ってるのが見えた。
「あー、これがいいかなー」
あまり待たせるわけにはいかないだろうから、手近の棚から何となく目にとまった本を抜き出す。
「舟山さんは?」
「小説のコーナーにいるよ」
「そっか、じゃあ、小説の方にも行ってみるね」
「分かった。わたしどこかに席取っておくから」
「うん、よろしくね」
一ノ木さんを見送った。
(さて・・・)
一ノ木さんには、ああ言ったけど、小説のコーナーがどこにあるかなんて分からないから、また本棚の間を歩き回ろうかと顔を上げたところに
(あ・・・)
栞那ちゃんが見えた。
「・・・」
そっと近づくと
「美結さんは、ここによく来るのか?」
完全に背中が見えてるから私が来たと分かるはずないのに、栞那ちゃんは小声で話しかけてくれた。
「ああ、うん」
ちょっとうれしくて、栞那ちゃんにもう二、三歩近づいた。
「ホントは、今日初めて来た感じ」
「そう」
栞那ちゃんの視線は手元の本に行ったままだ。
「栞那ちゃんは?ここよく来るの?」
「・・・・・」
「・・・・・」
左手が下りたままの栞那ちゃんが何も言わないときは、答えてくれないんだって知ってるし、こっちを向いてもくれないようだ。
「じゃ、ゆっくり選んでね」
「・・・」
「あと、後ろゴメンね」
栞那ちゃんの背中と本棚の間をすり抜ける。
(さて、小説、小説・・・と)
本棚が途切れた所まで行くと、本を読むためのテーブルに一ノ木さんと舟山さんが向かい合って座ってるのが見えた。
小説のコーナーを探す手間は省けたようだ。
それに、一ノ木さんから2つ離れた席には、前田さんも座ってる。
3人とも何かもう読み始めてるようなので、そっとそっちに向かうことにした。