8月13日-(5)-
「・・・ぁ」
大きく息を吐く。
溜め息をすれば、胸に溜まってるいろんなことが出ていったりすればいいのにと思う。
(・・・・・)
でも、実際には胸のつかえなんて増える一方。
物心ついたときからもう、争い事が嫌いだった。
カッとなることはあるけど、我慢してきた。
間違って自分が誰かを怒らせたりしないよう、気を付けてきた。
いい子ぶりたいわけじゃなくて、ただ、争い事が嫌いなだけ・・・
今この場にいるわたしの周りの人達は、お互いがお互いに不満だらけだ。
でも、ある人は不満を表情、態度、言葉に出してるのに、ある人はじっと我慢して、誰かの不満を受け止めたり、やり過ごしたりしなければいけない。
不満をぶつけるだけの人。
不満をぶつけられるだけの人。
不満をぶつけたり、ぶつけられたりの人
ただ、不満の向かう流れは一方通行だから、争い事は起きない。
今、自分が何すればいいか全く思い付かない。
矢口さんがずっとわたしに不満を持ってるだろうことは、あの恨めしそうに見てくる目つきで判ってる。
わたしに不満があるのは、猪戸さんとか一ノ木さんだって同じだと思うけど、この二人は、もうわたしを見てくれてない。
何より、一番わたしを許せないのは三田さんのはずで、そんなの当たり前のことだと思う。
わたしが愛麗沙の提案を受け入れるより前のことを詳しく知らないけど、集会室の様子を見てれば、三田さんが二日目くらいからもう愛麗沙に従ってることは判ってた。
矢口さんは最初の日から愛麗沙や三田さんと同じ部屋だったから、次に引き込まれたんだろうけど、猪戸さんは元々別な部屋、確か安齊さんと同じ部屋にいたから、矢口さんよりは遅れただろうし、今だって夜は別な部屋で過ごしてる一ノ木さんは、わたしを別にすれば一番最後だったんじゃないかと思う。
だから、たぶん4人の順位みたいなのが、ずっと愛麗沙に従った順番で決まってきてたのに、自分が特別扱いされてるってわたしにも判るくらいだから、一番最初に愛麗沙に従ったのが自慢だし存在意義だった三田さんにとって、わたしほど憎たらしい女なんて絶対いない。
わたしが三田さん達と愛麗沙が何を言い交わしてるのか聞かされたこともないのと同じで、三田さんは、愛麗沙がわたしに何を提案してきて、どうしてわたしが愛麗沙の提案を受け入れたか、知らされてないんだろう。
想像しない、わざと。
だって、知ってしまったり想像したりしたら、その瞬間わたしはわたしの状況に耐えれなくなるに違いない。
(・・・・・)
安齊さんが伸ばしてくれた手を思い出す。
わたしに必要だったのは、あの手を拒むための勇気じゃなくて、あの手をつかむための恐怖だったのに・・・